乳児期から小学校時代の絵本の体験、読書の体験

谷川俊太郎さんが亡くなったというニュースが入りました。その前の月には『ぐりとぐら』の中川李枝子さん、『ねないこだれだ』のせなけいこさんも続けてお亡くなりになりました。子どもの頃から親しんだ世界を作ってこられた方々が、続けて他界され、寂しい限りです。朝の悲しい一報を受けて、大学の授業「言葉」の中で、谷川俊太郎さんの絵本を読みました。これまでも、紙コップシアターの作成などを通して谷川俊太郎さんの詩を紹介し、学生たちとその言葉の美しさ、楽しさを共有してきたからです。谷川俊太郎さんの詩には、心にスパっと刺さるようなエネルギーがあり、また時にはプッと笑ってしまうような軽快なリズムがあり…読んだ瞬間に別世界に連れて行かれる不思議な力を感じていました。
保育者だったころを思い出すと『もこもこもこ』(谷川俊太郎 作/元永定正 絵)の絵本が特に子どもたちに人気で、読みながら一緒にゲラゲラと笑ったり繰り返し声に出して表現したりした記憶があります。言葉の楽しさを共に存分に味わった瞬間でした。保育者自身が言葉の楽しさや美しさを感じることで、子どもたちにもその気持ちが感覚的に伝わるのだな…と確信しました。身近な大人と共にそんなふうに言葉や物語の世界を楽しんだ子どもは、小学校に行く頃になると自分でも積極的に本を読むようになります。
私自身の子どもの頃のことを思い出すと、中川李枝子さんの『ぐりとぐら』が在園の頃から大好きでした。キャラクターが絵本から飛び出てきて、今にも歩きだしそうな感覚も体験しました。母に頼んで絵本の絵を紙に写してもらい、それで塗り絵をしてその世界に浸っていました。小学校一年生になった頃、知り合いのお姉さんから『いやいやえん』(中川李枝子 作/大村百合子 絵)の本をもらい、それを自分で読んで楽しんだ記憶もあります。面白くて止まらなくなり、一気に読んだことを覚えています。「なんて面白いお話なのだろう!」と感激して、次の日に学校へ持って行き、担任の先生に「これ、面白いから、先生も読んでみて!」と本を差し出したのです。先生はもちろん『いやいやえん』を知っていて「面白いわよね」と共感してくれました。ちょうどクラスに「シゲル君」というやんちゃな男の子がいて、主人公の「しげる」がその子と重なって「うちのクラスのシゲル君みたいだね」などと、余計な一言を先生に言ったことも覚えています。子どもは、お話の世界を常に自分の世界と重ねながら楽しむのかもしれないですね。きっと、現実のシゲル君とのかかわりが、より「いやいやえん」を楽しく感じさせたのだと思います。
子ども心に不思議だったのが、身近な園の世界から自然な流れで読み進めていくと、いつの間にかファンタジーの世界に入ってしまう事です。「あれ?いつの間に現実から離れた世界になってしまったんだろう」と分析するように繰り返し読みました。
読書の基盤は子どもの頃からの体験の重なりと良質な絵本との出会いにより、その世界を「楽しい」とか「不思議」とか思う事からはじまると思います。それはとても主体的な活動であると私は思うのです。「本を読みなさい」と大人たちが言えば読むわけではありません。たくさんの楽しい絵本の体験が読書の土台を作ると思っています。さらに言えば、その土台は、乳児期からの人間関係です。身近な人と気持ちを通わせることです。赤ちゃんの時代から、身近にいる大人たちと十分な関わりをもち、応答してもらい、共感してもらい、肯定的な言葉をかけてもらい、楽しみながらそういった体験を増やしていくのです。そのタイミングで素晴らしい絵本や児童文学と出会っていくことが大事だと思うのです。
今は養成校での授業で、自分自身も言葉を楽しみながらその大切さを伝えています。

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