見出し画像

視察だけで終わらせない。CESを有効活用する「長期視点」と「カジュアルなコミュニケーション」

2024年1月9日から12日にかけて世界最大のテクノロジーの祭典「CES 2024」が開催されました。CESは世界各国の大企業からスタートアップまでが集まるイベントですが、単なる買い付けの場にはとどまらず、世界的な技術動向が共有され、出展者にとっては自分たちのビジョンを具体化して披露する場にもなっています。

膨大な企業が集まるため、ただ会場を見て回るだけで具体的な事業に繋がるとは限りません。CESを単なる視察やプレゼンテーションの機会で終わらせず、大企業やスタートアップにとって収穫のある場にするためには、情報のインプットやコミュニケーションにも工夫が必要です。

HAX Tokyoを運営する住友商事からCES 2024に参加した3名と、スタートアップとしての出展経験もあり、HAX Tokyoの採択企業でもあるFutuRocketの美谷広海氏にお話を伺いました。会場の印象をはじめ、具体的なコミュニケーション方法まで話題が及んだ座談会の様子をお届けします。
(CES会場の写真提供:住友商事、FutuRocket)

座談会の参加者。左から
住友商事 メディア事業本部 ケーブルテレビ事業部 宮川蒼平、嶋田夏生
住友商事 デジタル事業本部 新事業投資第一部 舟橋采里
FutuRocket 代表取締役 美谷広海氏

技術動向を体感するためのCES


嶋田:ケーブルテレビ事業部に所属し、当社が出資する事業会社の主管業務に従事しています。CESにはメディア関連の動向を知るとともに、モビリティや生成AIなど最新の情報をキャッチアップするため、部からの出張というかたちで参加しました。

宮川:嶋田と同じ事業部で、ローカル5Gを用いたビジネス開発に取り組んでいます。CESでも5Gを活用したソリューションやデバイスの進化に注目していました。

舟橋:新事業投資部のグローバルCVCチームに所属し、シリコンバレー拠点のスタートアップ投資管理や日本での事業開発、オープンイノベーション促進などを担当しています。ChatGPTの登場やそれに付随する変化など、メガトレンドの傾向を掴むためにCESに訪れました。1000社以上参加するスタートアップの動向調査やソーシングを行うことも目的の一つです。
美谷:エッジAIカメラなどのIoT製品を企画開発するスタートアップ「FutuRocket」の代表を務めています。CESには2015年から参加しています。技術や製品の動向を定点観測しながら、自社のアイデアに繋げたり、協業先を見つけたりすることを目指しています。また、リモートでやりとりしていた企業と直接話すことで、具体的に協業内容を詰める機会としても活用しています。

販促とブランディングが共存する会場

ーーCES2024の印象は、いかがでしたか?

嶋田:メディアに関わる事業としては、車内エンターテイメント(in-car entertainment)が重視されていた印象を持ちました。自動運転が実現すれば、車は単なる移動手段から、家と同じようにコンテンツを楽しめる場になりますよね。BMWの展示では、後方座席でAmazon Primeのコンテンツを楽しめたのですが、映像以外の音響にもこだわっており、映画のように臨場感のある音声が楽しめました。

BMWブースに展示されていたEVカー「i7」

嶋田:現地の雰囲気を感じながら、さまざまな展示を見ましたが、メディア以外の観点では特にENEOSのブースが目を引きました。説明を伺うと、エンジンオイルの技術を活用して、データセンターの機材をオイルで冷却するソリューションを提案していました。ガソリンスタンドの事業が縮小傾向にある中で、これまでとは異なる分野に、技術の応用で切り込んでいく姿勢が印象に残りました。当社としても、今後取り組んでいくべき新規事業のヒントを見つけられたことは収穫でした。

ENEOSブース
ENEOSのオイル冷却式サーバーラックのモック

美谷:ENEOSのブースは僕も印象に残りました。隣のブースにはENEOSが出資する流体シミュレーションソフトを開発する会社もあり、事業としての繋がりも理解できました。こうした展示の見せ方の上手さを確かめるのも、CESならではのポイントだと思います。

HYUNDAIの電動リモート操作ショベルカー
HYUNDAIの移動するパーソナルスペース

宮川:5GはCESのウェブサイトで大きく取り上げられていたのですが、現地ではちょっとした通信端末が置いてある程度で、今回のメインストリームではなかったようです。やはり価格が低下してきた4G(LTE)ベースでの開発が先行しており、どの事業者に聞いても「5G対応はまだ少し先」といった回答でした。

一方で、5Gのアプリケーションとして期待されるARグラスやウェアラブルデバイスは、総合電機メーカーのブースでも当たり前に置かれており、将来への期待を感じました。。Ray-BanとMetaが共同開発したサングラス型のデバイスは、既に国外で販売されており、骨伝導型イヤホンと小型カメラが搭載され、シームレスにSNSでの配信などに繋がる製品として印象に残りました。

bHapticsによるAR/VR用触感センサーのグローブとスーツ

ーー少し先の未来と、すぐに使える実用的な製品が混在していたのですね。
美谷:CESは単なる見本市や買い付けの場ではなくなっています。その場で買える商品のないブースもありますし、赤字を承知で展示している企業や、あえて何年かに一度だけ出展する企業もあるでしょう。そうした年度ごとの変化を追うことで、より技術の動向や世界的なトレンドを理解しやすくなると思います。

変化は年次で追いかけるーー戸惑わないための過ごし方

オランダのスタートアップHoloconnectsによるAIを活用したホログラフィックスのデモ

ーー舟橋さんはスタートアップの視察にも行かれたのですよね。
舟橋:協業が考えられる業態を中心に、Webサイトで興味を持った会社を20-30社程度リストアップしました。スタートアップだけでも1000社以上集まるので絞り込みは大変でしたが、CESの運営組織が選定したInnovation Awardsなどを参考に、デジタルヘルスやスマートホーム、ロボティクス関連のスタートアップを中心に訪問しました。中でも生成AIを活用した高齢者向けの対話ロボットや、Webtoon(ウェブトゥーン、スマホ画面で縦にスクロールしながら読むマンガ)の作画に生成AIを活用したスタートアップなど、AIとのコラボレーションが多く見受けられました。

Webの情報で期待して行ってみたものの、実際のプロダクトの完成度は微妙な企業もありました。UI/UXが洗練されていなかったり、想像よりも機能が制限されていたりと、プロダクトとして未成熟なものも多かった印象です。スタートアップの集まるEureka Parkエリアには、色々なステージの企業が集まっていました。

美谷:日本のスタートアップも頑張っていますが、今年は韓国の存在感が飛び抜けていましたね。フレンチテックで話題になったフランスのスタートアップは数を絞っていたりと、国別の動向も見えてきます。

オランダのスマート調理器スタートアップSevvyによるデモンストレーション

ーーハードウェアスタートアップの試作品などは特に、一見しただけでは価値がわかりづらいこともありますよね。価値を見誤らない、上手な会場の見方があれば教えていただきたいです。

美谷:難しいポイントですが、経年で変化を見ると動向がわかりやすいです。たとえば、2023年に脳波測定デバイスを出していた企業が、2024年にはその技術を用いたスリープテックを展示していたりする。これを順調な変化と見るか、止むを得ずの事例と見るかは判断が分かれるところですが、そうした変化は続けて参加しないとわかりません。

前年に好評だったはずのブースが消えていたら、うまくKPIが達成できなかったのかと想像したり、自分たちならどういう見せ方をするかを考えたりと、そうした観点で見るのもおすすめです。

また、CESの出展者数は膨大なので、現地で見るべきものの情報収集にもコツがあります。信頼できるメディアの方のSNS投稿を見てみたり、知り合いと食事しながら「あそこどうでした?」「何が面白かったですか?」など話して、互いに気になるブースや技術をシェアするのが良いでしょう。

次のステップに繋げるためのアクション

Eureka Park内のJ-Startup/JAPANパビリオン

ーー協業できそうな企業と出会った場合、どうすれば具体的なアクションに繋げられるでしょうか?

美谷:スタートアップとして出展側にいた身としては、もちろん情報収集だけでも良いのですが、写真だけ撮って帰られてしまうと残念な気分になりました。可能なら、興味を持った点や改善点、競合他社との違いなどをフィードバックいただいたり、質問をいただけるとありがたいです。

その場で写真や感想をSNSに投稿するなど、カジュアルなコミュニケーションは距離を縮めてくれます。また、気になった会社があれば、是非サンプル製品の購入を検討いただきたいです。いきなり大きな商談に繋げることは難しくても、少額でも具体的なアクションを取っていただくと、得られる情報が増え、良いリレーションが構築できると思います。

舟橋:事前に美谷さんからこうしたポイントを聞いていたおかげで、スタートアップに対してサンプルの有無や価格、プロトタイプ段階なのか商用化段階なのかなど、会社のフェーズも含め、目的意識を持って具体的な話ができました。普通に話すだけでは、商品説明やプレゼンのような硬い話に終始しがちですから、価値あるコミュニケーションができたと思います。

ーー今年の経験を踏まえ、次回CESに参加するとしたら、どのような準備をしたいと思いますか?

嶋田:今回も事前に調査はしていたのですが、あくまで記事や資料を読むだけにとどまっていました。過去に参加した人から話を聞けば、より有意義な情報を得られたと思います

宮川:Webに公開されている過年度のキーノートスピーチは事前に見ておくべきでした。過年度のトレンドを抑えておけば、ブースで見るべき観点も変わっていたかもしれません。

ネットワーキングイベントの様子

舟橋:CESの期間中はVCや銀行が主催するネットワーキングイベントも多く、私もいくつか同席させていただきました。お酒もある席で、踏み込んだ話も伺えたのは貴重な経験でした。一方で、こうした会は事前の招待がないと入れませんから、CESを通じてより多くの人と繋がれるよう、事前にコンタクトしておくと良いかもしれません。

美谷:CESには国内企業の新規事業担当者やグローバル担当の方も参加していますし、場所を共有するからこそ繋がる機会も生まれます。当日の流れで会合がセットされることもありますから、ある程度の予定は組みつつ、スケジュールには余白を持たせると良いかと思います。さまざまな過ごし方をされたと思いますが、皆さんが直接CESの現場を見たことで、今後Webなどで公開される情報の解像度がぐっと上がると思います。

ーーCESで見聞きした内容は、1年で完結させるのでなく、数年単位で変化を追いかければより価値が出てきそうですね。会社や部署単位で状況を共有しながら、良いタイミングで具体的なアクションに繋げられると良いのかと思いました。

(取材・文:淺野義弘 / シンツウシン)

スタートアップ向け壁打ち相談会(対面・オンライン)のお知らせ

HAX Tokyoでは、グローバル展開を目指すハードウェア スタートアップや、これから起業を目指している方向けのカジュアルな壁打ち会を実施しています。

HAX Tokyoのメンターが相談をお受けしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

【相談できることの一例】

  • 資金調達を成功させるためにピッチ資料を改善したい

  • ​開発 設計など製造面での課題があり相談にのってほしい

  • PoCの良い進め方、いいプロトタイプ(MVP)の作り方を教えてほしい​

  • 企業との事業連携や事業開発をうまく進めるためのコツを知りたい

なお、HAX Tokyoへのエントリーやお問い合わせも、こちらの相談会でお請けしています。詳細は下記サイトからご確認ください。

この記事が参考になったら、SNSへのフォローもよろしくお願いします!

Twitter: https://twitter.com/HaxTokyo

Facebook: https://fb.me/haxtokyo

この記事が参加している募集