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2022年6月の歌  テーマ「映画」

隣り街に『笛吹童子』を観に行きてヒャラリヒャラリコ野道を帰りぬ  
赤白黄の明るく無垢なチューリップに煩い忘れて子供に帰る  
岡まなみ 

モウモウとタバコの煙立ち込める戦後の映画館『風と共に去りぬ』 
寒すぎる人もまばらな映画館に大音響の宇宙戦観る  
小島夢子

慰めと勇気と夢を貰ってた岩波ホール遂に閉館
思い出す岩波ホールで見し映画『山の郵便屋』『8月の鯨』    
近藤秀子

老い坂に孫の成長眺めいるそれもよきかな我が人生は
右、左、ぬぎて飛び散る子の靴もいとしく思える我が老いの春    
柴田和子

名画座の二本立て跳ね路地裏に猫はあくびす春の夕暮れ
何ゆえに銃に頼るか若者よ失われたる命帰らず
関本なつ

満足だ 映画を観たら感動の泣いて笑うよ冒険の旅
日が長く一日とくをした気分 気分がいいね一日ルルル
田中えり

憂愁を帯びしメロディーに誘われて『ゴッドファーザー』幾度も見たり
スコールの激しき音にジョギングの夫を案じてタオル出しおく
筒井みさ子

ウクライナのひまわり畑の幻影は消えることなき平和の日日よ     
感情の断捨離すでに去りゆけど忘れたきことまたよみがえる      原 葉

久しぶり夫と珠玉のミステリーピーナツつまみてソファに沈む
探し物探す時には透明で見えぬものらしひょいと現る
藤代敏江

年二回の検診なれど担当医に面会叶うは一年半ぶり       
お陰様で長生きをして嬉しきに医師も代わりて今回五人目     

三浦アンナ

「トムに会う」と八十の友のメールありデートはいつもの映画館らし  
三輪山の境内に咲くササユリの透き通るような淡き紅   
森田郁代

霞みゆく吾あの青春の幾齣こまか見ゆるがごとき『ローマの休日』
朗読は健康によしと始めたるに声の詰まれる『わが母の記』に
楽満眞美

その昔アメリカ帰りの叔母がいて寝ずにせがんだ洋画の話 
「ありがとう」義母の言葉が嬉しくて足取り軽く夕餉の支度 
六甲もこ

眼鏡にも呼び出し音を付けたいな隠れんぼする我の頭上に 
パタパタと走り回る孫怪獣高齢犬は居場所を無くす 
伊藤美枝子

春風は海の匂いを運び来て吾が残生にまだ夢のあり
飲み干して掌にある抹茶碗貫入(かんにゅう)はしる青磁色の艶
今森貞夫

彼の手を握り返せば脳内に映画の筋など入る余地なし 
子供らの残しし物を我が腹に納めて夕餉の片付け始む
鵜川登旨

わがこころ喜怒哀楽はなだらかに丸くなったかコロナのせいか
風薫りうぐいす鳴いて場を守るウクライナにも鳥鳴く森を
小野貴子

砂浜におじさん顔(がお)のアザラシがどってり寝そべる平和なハワイ 
真裸の赤子は浜をはいはいし犬は泳ぎゆく夏近き海 
大室やよい

甘樫の丘は寒風吹き荒れて何とか眺めた大和三山
みちのくの角館なる名物に桜の皮の茶筒工芸
大森久光


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