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ウクライナは、外国人の代理母による出産を商業的に認めている数少ない国である

母子保健課の課長補佐のときに、生殖補助医療を担当しました。

21世紀初頭の母子保健の国民運動計画である「健やか親子21」をとりまとめるときに、将来的には生殖補助医療を保険適用にすることも考えられると書きました。

菅総理のときの診療報酬改定で、不妊治療が保険適用になったことは、「健やか親子21」を手がけたものとしては感無量です。

この当時、あるテレビ局から生殖補助医療について取材を受けたことがあります。

事前に3つ質問をもらっており、テレビカメラが回ると、テレビ局の記者はそのとおりの質問をしてきました。

順当に答えたので、これで終わりのはずでした。
ところが、記者は4問目の質問をしてきました。

しかも、代理母に関する内容でした。

打ち合わせのときには、「代理母については質問しませんので(笑)」と言っていたのに、ぶつけてきたのです。

「だまし討ちとは卑怯なり!」と頭にきたので、代理母について思っていることをカメラの前でぶちまけました。

代理母を推奨する人は、代理母が子どもを産む奴隷として扱われていることを全く理解していない。

米国で行われている代理母は、多くがマイノリティーの女性であり、弱い立場にある。

高額な報奨金目当てに、契約しているのが実情だ。

代理母の契約書はとんでもない。

コーヒーを飲むな。酒を飲むな。
こういう食事をしろ。
あまり日光には当たるな。
病気になっても薬は飲むな。
母体血マーカー試験を受けて、ダウン症の発生リスクが高いという結果だったら中絶しろ。
子どもが生まれたら、二度と会いに来るな。

妊娠期間中の行動を徹底的に制限させて管理する、倫理的にも法的にも問題のあるもので、お金を払うから黙って子どもを産めという、弱い立場の女性に対する奴隷契約に等しい……。

ここまでしゃべったところ、テレビ局の記者はカメラを止めました。

「すいません。調子にのって代理母について質問をしてしまいました。これは使いませんので」とバツが悪そうな顔をしました。

「いや、むしろこれを使ってもらいたいです。報道されないので、多くの人は代理母の問題を知りません」

記者は、首を横に振って「これは使えません」と断言しました。

だったら聞くな。

テレビ局の記者は、カメラを回しはじめたら、山本リンダさんの「どうにもとまらない」状態に変身することがあるので、取材を受けるときには注意が必要です。

代理母については、国内では献身的な姉や妹の「美談」として報道されることがあります。

海外で行われた場合は、契約書の中身が報道されることはありません。

この取材を受けたのは、25年ほど前のことですが、今もこの状況は変わっていないでしょう。

ウクライナは貧しい国で、外国人向けの商業的な代理母出産を認めている数少ない国です。

これまで盛んに行われていたタイやインドが禁止措置をとったので、ウクライナの人気が高くなったのです。

しかも費用が安く、米国の半額です。

戦争で、ウクライナ人の代理母は、どうなったのでしょうか。

産まれても、契約した親が引き取りにウクライナに行けないことが十分に想定されます。

戦争が始まって3年たちました。

妊娠出産に関わる母子保健は、いろいろと考えさせられることが多い分野です。

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