大谷翔平選手は、「巨人の星」の星飛雄馬とアームストロング・オズマである
我々の世代では、監督といえば、ジャイアンツの川上哲治監督です。
長嶋選手、王選手というスーパースターを中心に、無敵の九年連続日本一V9を成し遂げた名監督です。
熊本県の出身で、現役時代に「打撃の神様」と言われ、「ボールが止まって見える」というくらいにヒットを量産しました。
アニメ「巨人の星」に登場する川上監督は、立ち上がり「タイム」と言って、球審の方に歩いて告げます。
「ピッチャー星、キャッチャー伴!」
マウンドの星飛雄馬の眼から炎がメラメラと燃えて、大リーグボールをキャッチャー伴宙太の構えるミットめがけて投げ込みます。
ライバルは、阪神タイガースの花形満、大洋ホエールズの左門豊作、中日ドラゴンズのオズマ。
ちゃぶ台返しをする頑固な父の星一徹、電信柱の横で飛雄馬を見守る姉の明子さん、とキャラが立っていました。
いやいや、感動しました!
アニメの最終回を見て涙を流していたら、母から「何泣きよっとね、こん子は」と言われたことを思い出します。
ジャイアンツは宮崎でキャンプをするので、「巨人の星」には宮崎が登場します。
主人公の飛雄馬は、宮崎キャンプ中に出会った、診療所に勤務する看護師の美奈さんに恋心を抱きます。
小さい頃から野球しかせずに育てられた「野球人形」の飛雄馬が、初めて人間に戻った瞬間です。
美奈さんは、悪性黒色腫というがんに罹ってました。
飛雄馬に向かって「死の星です」と叫ぶシーンは子ども心に今も強く焼き付いています。
爪に黒い点ができていたのです。
美奈さんの病気の進行はとても早く、亡くなってしまいました。
飛雄馬は、また「野球人形」の世界に戻り、ライバルたちとの死闘に明け暮れることになります。
米国で「野球ロボット」として育てられたアームストロング・オズマは、飛雄馬に対して「お前と俺は同じだ」と指摘します。
「違う、俺は人間だ」と否定しますが、オズマは飛雄馬の境遇を見抜いていました。
オズマは日本で習得した「見えないスイング」を大リーグに持ち帰って大活躍しますが、徴兵されてベトナム戦争に出征し、怪我をして亡くなります。
美奈さんとオズマは、泣かせる存在でした。
今でも二人のことを思うと、うるうるとなります。
大学の学園祭で、医学展示というものがありました。
病理学教室の協力を得て、来訪者に、さまざまな病気で亡くなった人の臓器の実物を見せながら、病気について解説をしました。
その中に悪性黒色腫で亡くなった人の病理標本がありました。
ほくろのがんで、全身の臓器に転移しており、墨のように黒くなっていました。
「巨人の星の美奈さんの病気です」と言うと、「あーっ」と思い出してくれました。
「巨人の星」の頃は、大リーグは憧れでした。
大谷翔平選手は、消える魔球を投げる星飛雄馬と、見えないスイングでホームランを量産するオズマを足したような存在です。
野球だけをやってきた野球人形でも野球ロボットでもなく、「人間性の塊」のよう。
「勝つためには、大リーグに憧れるのはやめましょう」とWBC決勝戦のときに大谷選手は言いました。
この言葉を聞いて、私の中で「巨人の星」の時代は終わったという気がしました。
「巨人の星」は、原作が梶原一騎さん、画は川崎のぼるさんの黄金コンビで、昭和の香りが満載です。
大谷選手も読んでいたらうれしいです!
美奈さんの姓が宮崎に多い「日高」だったとは知りませんでした!
宮崎大学医学部の公衆衛生学の講義で、大谷選手のことを思い出して「公衆衛生と医療の二刀流を目指せ」と訓示しました。
「巨人の星」の話も入れたらよかったかもしれません。
たぶん、誰も知らないかも。
昭和は遠くになりにけり、かな。