GHQは、米国の嗜眠性脳炎と区別するために「日本脳炎」と名付けた
小学生のころは、夏休みが楽しみでした。
宮崎県にあった謎の宿題帳「夏休みの友」はやっかいでしたが……。
そのころ怖かったのは、日本脳炎でした。
毎年7月になると、宮崎県内で今年初めての日本脳炎患者が発生したので、蚊に気を付けるようにとニュースで言っておりました。
学校の先生から、日本脳炎になったら、高熱が出て死ぬか、治っても障害が残るといわれていたので、蚊にさされることが恐怖でした。
「日本脳炎」という名前は、日本に多発する脳炎と思えて、小学生には恐ろしいものでした。
日本脳炎は、コガタアカイエカが吸血して感染させる我が国最強の感染症の一つです。
1960年代には、年間数百人の患者が発生していました。
このころは、夏休みが明けると、日本脳炎のためにクラスの同級生が一人減っていたということが珍しくなかったそうです。
山田詠美さんのエッセイ「私のことだま漂流記」に、先輩の編集者から聞いた話が紹介されています。
日本脳炎は、豚と関係が深い疾患です。
豚はコガタアカイエカに吸血されると、蚊が保有していた日本脳炎ウイルスが豚の血液中に入ります。
豚の血液中でウイルスが増殖しますが、豚は脳症を起こすことはありません。
感染豚の血液を吸ったコガタアカイエカは、日本脳炎ウイルスを保有し、これらの蚊に人が刺されると感染することになります。
不顕性感染が多く、発症するのは1000人に一人と言われています。
発症した場合は、急激な発熱と頭痛が生じて、意識障害、興奮、四肢振戦などの脳症状を起こして、致死率は25%になります。
発症した患者の約50%は、知能障害・運動障害などの症状を残して回復します。
完全に回復する人は、25%です。
日本脳炎ウイルスは、日本だけでなく東アジアから中央アジアにかけて広く分布しています。
水田はぼうふらが発生しやすく、その近くに養豚場があれば、日本脳炎ウイルスを媒介する環境が整うことになります。
稲作と豚の飼育の増加が、日本脳炎の発生の原因となっています。
日本での発生は、現在は数名ほどです。
その理由は以下のとおりです。
養豚場が悪臭の問題から、人家から遠く離れた場所に設置されるようになったこと
稲の品種改良が進み、水を早めに抜くようになりボウフラが育成しにくい環境となったこと
家に網戸や冷房が整備され、蚊取り線香やベープマットが広く使用されていること
日本脳炎ワクチンが接種されていること
日本を占領した米軍が一番恐れていた感染症は、日本脳炎でした。
法定伝染病の中に入れるように厚生省に命令しました。
当時の日本では「嗜眠性脳炎」と言われていました。
米国の嗜眠性脳炎は、セントルイス型脳炎、東部脳炎、西部型馬脳脊髄炎の三種類がありました。
GHQは、これらの脳炎と区別するために、日本脳炎という名前を提案してきました。
日本人によって確認されたウイルスだからという理由でした。
日本に多いからというわけではありません。
こらーっ!
もっと考えてから、つけんかーい。
豚は、日本脳炎ウイルスの増幅動物です。
蚊が育成するためには、蚊の幼虫であるボウフラが生息するための水が必要になります。
豚と田んぼがシンクロすることで日本脳炎が蔓延します。
この感染の鎖を切ったことが、我が国における日本脳炎の蔓延を防止しました。
もはやGHQもいないので、名前を変えてもいいと思いますが、憲法改正と同じで難しい気もします。