ダイヤモンド・プリンセス号のドイツ人夫妻から防衛省にお礼の手紙が来た
令和2年2月3日に横浜港に入港した英国船籍の大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号には、乗員・乗客が3711人いました。
自衛隊は、2月6日から3月1日までの間、ダイヤモンド・プリンセス号の検疫支援の活動に、延べ活動人員2700人を出動させました。
感染リスクが極めて高い、巨大で複雑な客船上でのオペレーションでした。
こうした大型クルーズ船での感染症対策は世界初の出来事で、前例がありませんでした。
自衛隊は、検疫支援の他に診察や薬の処方と仕分けの医療支援、生活物資の搬入の生活支援、ホールや階段の手すり、エレベーターのボタン、ドアノブなどの船内の共同区画の消毒、下船者の医療機関への搬送、チャーター機による帰国者の空港への輸送を行いました。
医官・看護官は、PCR検査の検体採取や巡回診療を行いました
自衛隊の医官と看護官がいなければ、乗員・乗客全員のPCR検査は実施できなかったでしょう。
薬剤官は、薬の配達を行いました。
クルーズ船の乗客の大部分は高齢者で、持病があり、薬を持参して内服していました。
「しんこくくすりぶそく」という日の丸の旗に記されたメッセージがテレビで流されました。
薬を乗客に届けることは、かなり困難なことでした。
薬を常時内服している乗客が、約2000人いたのです。
薬の名称とその容量を把握する方法は、乗客の自己申告による手書きのメモでした。
名称のミスや容量の間違いは普通でした。
そもそも自分が毎日飲んでいる薬の名前と容量を、正確に書ける人がいるでしょうか?
外国人も多く、日本国内では使用されていない薬もかなりあったのです。
こうした場合は、同じ薬効のある薬を調べて、本人に説明して服用してもらうことになりました。
クルーズ船の乗客の部屋に行くことができる薬剤師は限られていました。
派遣元の病院から、感染するリスクの高い場所に行くことは許可されていませんでした。
そのため自衛隊の薬剤官が、乗客の部屋に行って説明をしました。
自衛隊の薬剤官は、パズルのような作業を果てしなく続け、正確な薬の名称と容量などを記載した一覧表を作成しました。
薬の間違いは、絶対に許されません。
これまでの災害派遣における現地での医薬品の取扱いや、通常の自衛隊病院での医薬品の在庫管理の経験が役に立ちました。
今にして思うと薬剤官にはうってつけの仕事だったかもしれません。
ダイヤモンド・プリンセス号には、DMATをはじめさまざまな団体や職種の人が支援に入りました。
それらのオペレーションの中心は、感染者を発見し首都圏の受け入れ可能な医療機関を見つけて搬送するという作業でした。
そういう脚光を浴びる業務もありましたが、船の中で毎日を過ごす乗客に対して、必要な薬を届けた薬剤官たちがいました。
防衛省には後日、ドイツ人夫妻から手紙が届きました。
ダイヤモンド・プリンセス号で日本に観光しに行きましたが、新型コロナウイルスで自衛隊中央病院しか見学できませんでした。
日本政府の対応がまずかったと批判する人がいますが、私たちはあの対応しかなかったと思っています。
病院の皆さんのおかげで体調も回復し元気になりました。
また海外渡航ができるようになったら、必ず東京観光に行きます。
このドイツ人夫妻の手紙のエピソードは、防衛白書に掲載されています。
ダイヤモンド・プリンセス号での薬剤官の奮闘は、ほとんど知られていません。
教訓として言えることは、お薬手帳は大事ですね!
服薬中の方々は、ぜひ携帯しましょう。