祖母の庭には、いつだって綺麗な花が咲く。
高齢の祖父母と同居している。我が家はいわゆる二世帯住宅だ。
私たち三姉弟は、祖父母に育てられたと言っても過言ではない。共働き家庭だったため、帰宅すると隣家の祖父母宅で面倒を見てもらっていた。風呂へ入り、夕飯を頂き、寝るのにまた中庭を通って実家へと戻る。そんな幼少期だった。
当然、じじばばっ子である。
祖父は毎朝早くから畑仕事をしに行き、祖母は庭の手入れ。水をやり、草をむしる。その音が二階の私の部屋に聞こえてくる。平穏の音だ。
朝、ベランダの植木に水を遣る。ラベンダーと、藍。干された洗濯物のあいだから顔を出し、一階の庭を見下ろすと、祖母が庭の手入れをしているのが見える。
四季咲きのバラの下に、西洋十二単が綺麗に並んで、紫色の花を咲かせている。庭の西側にはこの間まで黄色いフリージアが肩を寄せ合っていた。今は白にピンクの線をひいたイキシアが、穂のような長い茎の先に、鈴なりに咲いた花を重たそうに下げている。
花期を終えた沈丁花の植え込みの下から、薄水色のシャガーが顔をのぞかせていた。椿も山茶花も、もうほとんど落ちてしまったが、人の顔ほど大きい牡丹が咲いて、庭を彩っている。
昔の人は桜の散るに心を痛め、歌を詠んだ。絶えて桜のなかりせば。
今年は桜に心を遣る余裕すらなく、春が過ぎようとしている。咲くを待つも、散るを思うもなく、気が付けば季節は移ろう。
長いような、短いような。そんな四月がもうすぐ終わる。
それでも、祖母の庭には花が咲いた。
春を彩る花は、桜だけじゃない。
ガーベラの蕾があちこちで顔を出し、ドウダンツツジの白い花弁が雫のように咲いている。
剪定して丸坊主だったアジサイからは、若葉が伸びて青々とし、初夏の幕開けを心待ちにしていた。
いつだって、祖母の庭には綺麗な花が咲く。そして草木は、ニュースに追いやられ、情報に押しつぶされた心に、きちんと季節を届けてくれる。
祖母からスコップとプランターを借りて、花の種をまいた。マリーゴールド。きちんと世話すれば、きっと青空に映えるオレンジの花を咲かせてくれる。
その日を待って、今日も水を遣る。
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イキシア、ガーベラ、シャガー、西洋十二単、牡丹。
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