心臓にナイフを忍ばせている。

自分が他人にどう思われているのか、わからない。というか、他人のことが何一つ分からない。世間の人たちはみんなきちんとしていて、私一人だけが皆に知らんぷりをされているような気になる。電車に乗ると天井には釣り広告、ドアにはポスター。就活、転職、キャリアアップ。モテ術、脱毛、マイホーム。並ぶ言葉のどれもが、自分と縁遠い。

被害妄想。誇大妄想。世界は私になんか興味がない。だから、就活の広告が表示されるのだって、AIの嫌がらせなんかじゃない。お前はまともな企業に入って働くなんて叶わないだろうが、なんて、誰も言ってないのだ。

それを分かっていながら、ツイッターの広告表示に『興味なし』と報告して消す。私が通ることを諦めて、皆が通って来た道。その存在が、いつだって心臓の裏から私のことを指をさして笑っている。

  〇

高校生の頃、青春映画のCMが流れるたびに、耳を塞いで大声を上げたくなった。カロリーメイトのCMで一生懸命頑張る受験生を見ては、どこかこことは違う場所へ行きたくなった。汗を流して部活動に精を出す清涼飲料水のCMですら、私を指さす有象無象の列に加わった。

  〇

心臓の中に、ナイフを忍ばせている。
そのナイフで、私に指をさす得体のしれない者たちを、次々に切りつけるのだ。色も形も分からないそれらは、それでも赤い血を流して、倒れていく。流れる血を見て、一時心が晴れやかな気持ちなる。しかし、よくよく見て見ると、そこで死んでいるのは私自身だ。心臓を一突き、血を流し、死んでいる。

普通になりたかったって、認められない。それでも憧れていたのだ、普通の高校生活に。校内を移動するだけで息が上がる身体じゃなく。持久走の授業にも普通に参加できて。皆みたいに、課題をこなす体力もある。病院に行かずに、薬も飲まない。手が震えて、字が汚くて泣きたくなることだって、ない。

普通になりたかったって、認められないのだ。健康で、元気で、健全で。嫌だなと言いながらもエントリーシートを書いて、面接へいける。その体力に憧れているなんて、認められないのだ。だって、持っている人は持っていることを知らないのだもの。私は、ただの努力不足なんだもの。

ほらまた、誇大妄想。被害妄想。

  〇

心にナイフを忍ばせている。
そのナイフで、どれくらいの自分を殺してきたんだろう。通学電車の中で、真冬の朝日が昇ってくるのを眺めながら、どうしたって止まらない涙の、その惨めさを、何度殺したのだろう。
いくらナイフを刺したって、楽にならないと知りながら。

認められなかったのだ、うらやましいと。
ないものねだりをしてしまう、己の惨めさを。
認められなかったのだ。

今でもまだ、どこかでその事実を、認められずにいる。

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