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バケツの底の小さな穴

・人が寝静まったあとのほうが、筆が進むと思う。なぜだろう。思考が静かになって、邪魔をされない気がする。

・何かを書こうと思い、パソコンをつけて、そのまま布団で寝てしまった。起きたら家人は寝静まり、少しこもりがちな部屋の空気と、蛙の泣き声だけが残っていた。

・そういえば、この土日にどこもかしこも田植えをしていた。空を映す鏡張りに、小さな苗が行儀よく等間隔で並んでいる。かわいくて、微笑ましい。

・自己肯定感のバケツの底に、穴が空いている。

・それほど大きい穴ではないと思うし、人から見えることも少ないんじゃないかなと、勝手に思っている。上手に取り繕って、まるで気にしていないように、他人からは見えるんじゃないかと。だけど本当は、私の醜い感情や、馬鹿みたいな自己弁護を、皆が見通しているのかもしれない。人に、自分がどう映っているか、なにもわからないから。

・例えば、嬉しい言葉を貰う。いっとき、水嵩が増して、満たされた気持ちになる。しかし、しばらくすると、知らぬ間に水が減っている。そして、水を欲しがっている自分がいる。

・他人のコップになみなみと注がれる水をうらやましく思ったり、ある時などは、その水は自分にこそだなんて、出過ぎたことすら思うのだ。

・そして、最後には必ず自己嫌悪をする。

・なぜ、与えてもらえたものだけで満足できないのだろう。いや、いっそ、なにも与えられずとも、満たされた状態で居たい。足りぬ足りぬと心が叫ぶのは、本当は足りてないわけではない。バケツの底に、目に見えない穴が空いているだけなのだ。

・私はとても醜くて、馬鹿みたいで、それでも騒ぐ感情を上手に黙らせられずにいる。くそみてぇな人間だなと、いつも思う。くそみたい。

・綺麗で居たい。持っているもので、満たされていると思いたい。だって、本当は満たされているんだもの。そりゃ世間からしたら足らない部分はいっぱいあって、だけれどもそれはもうしょうがなくて。私は私で、ここにいて、誰にも比較できないくらい特別なんだもの。そうだろう。

・本当はいつだって、大声で叫びたい。私はここにいるぞって。誰にも劣らない、誰にも評価される必要なんてない。それでもいるだけで、十分輝かしくて、瑞々しい。

・誰だって、そうであるように。私だって、そう。

・本当はいつだってそういう気持ちで居たいんだ。


・だけれどもまた今日も、誰かと並んで、手に何も持っていない自分に失望している。

・くそみたいだな。

・くそみたい。

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