見出し画像

布団の中の自由。

朝起きて、やっぱり、と思った。
いつもなら、起きてお茶を電子レンジで温める。温めている間にお手洗いを済ませて、温かいお茶を飲んで身体を起こす。それから、お湯を沸かして珈琲を淹れたり、パンを焼いたりする。
だけれども今日は、やっぱり、身体がひとつも動かなかった。

昨日の疲れが、完全に体に残っている。お手洗いにいくことすら、だるい。身体は重いのに二度寝がなかなかできなくて、外出する母が声をかけてくる9時ごろまで、布団に顔をうずめて時間をやりすごしていた。

なんとか身体を起こして、だれも居ないリビングでカフェオレだけ飲む。

自分の機嫌がわるいのが、ありありと分かる。なんとかこのストレスを解消せねばと、強力粉を取り出してパンでも作ろうかと試みるものの、はかりを強力粉の横に並べた時点で力尽きてしまった。

だめだ、もう。今日は寝よう。

そんなわけで、今日は一日、布団から出ないと決意した。

  〇

朝ごはんの代わりに、冷凍のうどんをひと玉胃の中に流し込んで、それから布団に包まった。

姉が置いていったツタージャの大きいぬいぐるみに、寝技をかけるがごとくしがみ付く。

それから、目を閉じて、心の中で旅に出た。

  〇

布団の中には、途方もない自由がある。そんな風に、感じるときがある。

たとえば、目を閉じてお気に入りの喫茶店に行くことを想像する。ああ、昨日飲んだクリームソーダ、おいしかったな。真っ赤なさくらんぼって、なんであんなに魅力的なんだろうか。

それから、最近知った近くにあるという古本屋を訪ねるところを想像してみる。まだ一度も訪れたことはないけれど、ホームページで見た店構えが素敵だった。そういえば、最近鶴舞の古本屋巡りもしていない。学術書がたくさんあつまっていて、みているだけでわくわくする。大学二年のときに、古本屋でみつけた『平安朝文章史』は宝物みたいな研究書のひとつだ。

空想のなかでは、どこへでも行ける。東京の雑踏の中だって、鳥取砂丘の砂の感触だって、自由自在だ。

全然進まない編み物も想像の中なら一時間で完成するし、ずっと下書きで熟成されているnoteも、すごい文章を思いついてすごい、もう、すごいのがかけている。

こういう想像を普段していたら現実逃避が過ぎるような気もするが、たまの布団から出たくない日なら許されるんじゃないだろうか。

気晴らしにどこかに出かけようにも、身体が重くて全く動かない。頭も回らない。空想の中でくらい、好き勝手に歩き回らせてほしいなって、誰にともなく言い訳をした。

  〇

布団の中にある、途方もない自由。
どこへでも行ける、そんな人間の想像力が好きだ。

だけれども、目を開ければやっぱり布団の中にいて。

明日は、外に出る元気が戻ってくるかな。
そうしたら、あの古本屋さんに行って、それからパンを焼きたい。

バレンタインデー、なにもしなかったなあ。
そんな年が、あってもいいか。

ぼんやりとそんなことを考えながら、もう一度たびに出るために、目を閉じた。

ここまで来てくれてありがとうございます。ついでに「すき」していただけると、逆立ちして喜びます。ボタン一つで手軽に告白。おまけつき。 minneでアクセサリーを販売してます。ナマケモノのお店、なまけ堂。のぞいてってね。https://minne.com/@namakedou