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もちづきさん ~「大食い」というメインストリームと「血糖値スパイク」というオルタナティブ~

最近のスーパー大ヒットの超話題作、もちづきさん。

この漫画は確かにすごい。本当に色々な意味で感心してます。

そもそも漫画自体がギャグ漫画として面白い。

会社員描写のディティールの細かさとか、人間性のしょうもなさとかドカ食いに行くまでの手数の多さに作者の「幅」を感じます。

そう、ドカ食いでウケてるからって急いでドカ食いに行く必要がない。作風にかなり余裕があります。先細りになりにくさを感じる。

あとこの漫画、僕が以前から考えてる売れる為の要素をいくつも兼ね備えてるハイブリッド漫画だなと思ってまして…



まず売れそうな要素その1、

食ってる物のカロリーが高い。



これ、冗談のようですが昔僕が読んで参考になったインターネットマーケティングの本で

「人間はカロリーの低いものより高いものに反応する」

というのがありまして。これ理由は「カロリーが高い方が人間の生き残る本能に訴えられるから」とかそんなんだったと思うんですが。

皆さんも売れてるグルメ漫画をイメージしてください。どっちかというとカロリーが高いはずです。




そして売れそうな要素その2,

矛盾したアイディアで出来ている。

これもまた別のカルチャー系の本に書かれてた事なんですが、この本にはグランジを代表するニルヴァーナの大ヒット曲「Smells Like Teen Spirit」を『メインストリームとオルタナティブの関係のターニングポイント』と評していて、この『二つの文化間の関係の矛盾』をとらえていると。

正しさ、責任、誠実などの精神と、そのような精神を馬鹿らしいとみなすポストモダンな感覚の両方があり、つまり矛盾したアイディアで出来ていると。


僕はもちづきさんもこれだと思うんです。

グルメ漫画界のカート・コバーン。


もちづきさんはめちゃくちゃ真面目だけど、やってる事はめちゃくちゃヤバいです。

現代での最新の考えでは死に直結する行動を一直線に取っています。

「大食い」というメインストリームと「血糖値スパイク」というオルタナティブを特に何の葛藤もなく漫画内で両方やっているポストモダン・グルメ漫画と言えます。


サウナブームを巻き起こした「サ道」では「ととのう」を明らかにドラッグ的なサイケデリック・エクスペリエンス的絶頂表現で書かれてましたけど、もちづきさんも同じです。いや、更にヤバい。

もちづきさんの「至る」にしろ、これらの行為はドラッグ体験の代替行為と言い換えてもいいと思いますし、最大のポイントは現在の法律ではまだ違法じゃないという所です。現代人に残された数少ない、合法的に死ぬ可能性のあるサイケデリックエクスペリエンス行為。それがドカ食い。それが「至る」。

しかし、まだ社会は「ドカ食い」を取り締まる事は出来ません。食ってるだけですから。この社会的矛盾を見事にもちづきさんは突いていると思うんです。社会性がある。

ドカ食いの面白さや魅力を伝えながらも無批判すぎることが逆にその危険性を訴えてもいる。


本来的なサブカルチャー漫画とはこういう事なのかも知れません。

優れた企画ってのはこれぐらい鋭くないといけないのかもしれません。

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