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消えきれなかったあの日(前編)

ちょうど1年前の今日、私は消えようとした。

理由は死にたかったからではない。

死ぬのは今でも怖いと感じる。

消えたかった。誰も私のことを知らないところで人生をやり直したかった。

家族には2度と会えないとしても、消えたかった。

今考えると、当時の私に一ミリも後悔が無かったと言われれば嘘になる。でも、それでも消えたかった。

ただただ消えたいという一心だった。

以前から度々、私の頭の中には家出という選択肢はあった。


日曜日、家には私以外誰もいなかった。

私はやるなら今日しかないと思い、家出を決行することにした。

何時に家出をするのか。
どこに行くのか。
などの具体的な内容は決めていなかった。

しかし、時刻は刻一刻と進み、14時を回った。

両親がいつ帰ってくるか分からなかった私は焦った。
そして、家出の準備をした。

リュックサックに

  • 財布

  • タオル

この3つを入れた。
半袖にハーフパンツ、その下にスパッツを履いた。
そして私の必須装備の初代メガネをした。

私は「探さないでください」という置き手紙を残した。

残すべきか、残さないべきか、迷ったが前者を選んだ。
もしかすると探してほしい。見つけてほしい。という思いが心のどこかにあったのかもしれない。

ここで私は玄関からは出ずに窓から出た。
理由は家に帰ってこないと決心したため、鍵を持っていっても邪魔になるだけだったから。

私は窓から出た。何度か窓から出入りしたことがあったから、いつも通り出られると思った。がしかし、ここで私のドジが発動。

足が引っかかり、こけて膝からついた。高さは4mぐらい。
初代メガネも割れた。悲しかった。
そして出鼻をくじかれた。

左膝のほうのスパッツの上から血が滲んでいた。
私は恐る恐るスパッツを脱いで怪我の具合を確認した。

かなりひどかった。今でも傷跡が残っている。
その傷跡を見る度に、私は「消えられなかったのか」と再確認する。

傷の中に少し砂が入っていたため、水で流してタオルで優しく拭いた。

左膝がズキズキするが気になんてしていられない。

私は二回目のスタートをきった。
今度はうまく出来た。

私はひとまず最寄り駅に行き電車に乗った。
目的地はなく、ただ何となく。

そして私が降車駅に選んだのは、幼稚園児のときに遠足で来た遊園地の最寄り駅。ただ何となくそこで降りたくなった。

私以外にその駅で降りた人はいなかった。
そりゃそうだ。その遊園地はもう閉園しているから。

しかし私はひょっとしたら入ることが出来るかも。なんて出来るわけもないことに少しの期待感を抱き入り口へと向かった。

整備のされていない道を虫に怯えながら歩いた。

そして入り口に着いた。

私の知っている、覚えている遊園地の面影はなかった。
その変わり果てた風景を写真に収めようか迷ったが、それはせずに心のアルバムに収めた。

そして私は再び痛い足を動かした。
行く当てもないただ消えたいという一心で。

私は暑さと汗に鬱陶しさを感じながら歩いていると広場に着いた。
以前来たことのある場所だった。

海が近かったため、少し涼しく感じた。
なのでそこで休むことにした。

目の前に一面に広がる海を眺めながら、これからのことについて考えた。

選択肢の一つとして、夜はその広場にあった公衆トイレの中で寝るというのもあったが、流石に体が拒否した。

そこから一時間程度、周りの人の釣果具合を見ながら過ごした。

持ってきた水がなくなり自販機に向かった。
そして自販機でサイダーを買った。美味しかった。

さっきまで居た場所には戻らず、再び行く当てのない旅を、終わりなき旅を歩み始めた。


つづく

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