連作小説【シロイハナ】1

奇跡。そのようなものは本当にこの世の中に存在するのだろうかとふと思う。そして、存在していてほしいと切に願う。


ある朝雪が降った。あれはもう2年以上も前のことだろうか。12月、もうすぐ年を越そうとしていたあの冬。少しずつ気温も下がり、ラッキーカラーの黄色いダウンジャケットが妙に温かく感じたあの冬。忘れもしない朝があった。

母はかれこれ8年くらい前から病を煩い、病気と闘っていた。僕たちのいる前ではあたり前のように元気な姿を見せてくれていた母。乳ガンだと宣告されたその当初は、僕も弟も思い切り気遣った。何かできることはないのか。当時高校生だった僕たちは、その足りない頭をこねくり回して何かできることはないかとそれはそれは必死に探し回った。ただ所詮病気になったことのない僕たちに本人の気持ちなんて分かるはずがない。随分と空回りだったと思う。

母はあたり前のように元気な姿で家にいた。病気を煩っていることなど一つも感じさせないくらい普通に生活してくれていた。ただ、いま思うととっても無理をしていたんだと思う。僕たちのいる前では元気でいないとと思い自分の身体を心を奮い立たせていてくれたんだと思う。どうしてもっと気づいてやれなかったんだろうか。

「これやって!」と言われなくても、「いいから座ってなよ!俺たちがやっておくからさ!」こんな一言でさえ出てこなかったのだ。本当に悔しい。


そんな母が亡くなったのがちょうど2年前の12月、僕も弟も社会人となっていた。12月の頭辺りから母の体調が思わしくなくなった。検査と言う名目でしばらく入院することが決まった。僕たちは仕事の合間を縫っては病院へと通った。

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