ハット君

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連作小説【シロイハナ】11

弟ほど負けず嫌いな生き物がこの世に存在するのだろうか。小さい頃はそう思っていた。僕たちがまだ小学生の頃、週末を迎えると両親と家族4人で、近所のショッピングモールへと買い物に行った。 小学生の僕たちからすると買い物は苦痛でしかない。暇だ。暇だ。暇だ。「ねぇ、早く家に帰ってゲームがしたい!」「はやくはやく!」「静かにしなさい!」両親としては小さいこどもを家においておくわけにはいかない。僕たちがなんと言おうと、地面を引きずり抱き抱え、たとえ顔を叩かれようとも一緒につれて家を出た

    • 連作小説【シロイハナ】10

      弟の話をしようと思う。僕には2つ年の離れた弟がいる。小さい頃から仲が良いんだか悪いんだか、沢山遊んだし、沢山喧嘩もした。 二人がまだ小学生の頃、弟と一緒にする遊びといえば、やっぱり野球が多かった。二人とも小さい頃から同じチームで野球を習っていた。   その頃住んでいたの家の周りは田んぼに囲まれていた。家へと続く道は一本しかない。車の通る心配もない。そう、絶好のキャッチボールスポットだ。弟と二人でそれはそれは夢中でキャッチボールに励んだ。   普通のキャッチボー

      • 連作小説【シロイハナ】9

        「買ってきたよ。」 「あぁ、ありがとうねぇ。」 「どこまでいってきたんだい?」 「近くのショッピングモールだよ。あんまり遠くにいくのはいけないと思って。」  「そうかいそうかい。ありがとうねぇ。」 「外は寒かったろう。」 「ううん。そんなに。」  「あんたは昔からセンスがよかったからねぇ。」 「きっとお母さんも喜ぶよ。」 「ありがとうねぇ。」  「だといいけど。」 「じゃあ、そろそろいくよ。」  「もう、いくのかい?」 「うん、いく。」 

        • 連作小説【シロイハナ】8

          高校生活の3年間は最悪の日々だった。紛れもなく人生最悪の日々だった。原因は他の誰でもなく自分にあった。僕は地元ではそれなりに有名な進学校へと入学した。トップとまでは言わないが2番目に頭の良いと言われている学校に入学した。入学するときはそれはそれは意気揚々とした。もう楽しみで楽しみで仕方がなかった。どんな友達に出会えるのだろうか。どんな先生がいるのだろうか。高校生ってなんだか少し大人な気がする。どんな学校生活が待っているのだろうか。きっと

        連作小説【シロイハナ】11

          連作小説【シロイハナ】7

          ある日突然、父が自宅で仕事をするようになった。普段和室だった部屋が改装され、そこが父の仕事部屋になった。父の会社には何度が行ったことがある。従業員の皆さんにはたっくさん可愛がってもらった。ほんと良い人たちばかりだった。みんないつでも笑顔で僕たちを迎え入れてくれた。そんな父が、会社には行かず自宅で一人で仕事をするようになった。何かおかしい。子供ながら何かが変だと思っていた。 ちょうどその年だったと思う。まだまだテレビが情報源として主流だったあの頃、連日流れていたニュースがあっ

          連作小説【シロイハナ】7

          連作小説【シロイハナ】6

          僕の家はいわゆるお金持ちの家庭だった。とんでもなくたくさんお金があったわけではないが、一般的なサラリーマンの家庭よりはかなり裕福な暮らしをしていたと思う。父は小さいながらも広告代理店を経営しており、それこそ寝る間も惜しんで働いてくれていた。僕たちが家を出る頃にはまだ眠っていて、朝食を一緒にとることはなかったし、その分夜中まで働いていたから、学校から帰ってきても家にはほとんどいなかった。 小さい頃はわからなかったが、大きくなってから父に「あの頃はいつも家に帰るとお前たちはもう

          連作小説【シロイハナ】6

          連作小説【シロイハナ】5

          祖母は僕にとって数少ない心の底から尊敬する人物の一人である。祖母の日課は畑仕事だ。どんな野菜だろうと自分の手で作ってしまう。その辺りのスーパーで買う野菜よりも低く見積もって100倍は美味しい。野菜の甘味が随分と違うのだ。祖母は暇さえあれば手を動かし畑仕事に取り組む。家にいるときでさえ、せっせせっせと掃除に励んでいるものだから、少しは休んでほしいと思うくらいである。そうして、作った野菜はほとんど周りの人たちにあげてしまう。自分が食べるのは残った分のほんのすこし。全く祖母らしい行

          連作小説【シロイハナ】5

          連作小説【シロイハナ】4

          日曜日の病院は人が少ない。ロビーが閑散としていて、院内コンビニ店員もどこか暇そうに佇んでいる。コンビニの色から父の着ていたいちじく柄のシャツが頭に浮かぶ。何か買っていこうか。ふと、思った。欲しいものを聞いてからにしよう。そんな風に思い直す。 昼食後の時間帯にも関わらず、どこか院内は雰囲気が暗い。最小限の電気しか付いていないからだろうか。エレベーターホールもどことなくひっそりと佇んでいる。ホールに近づきゆっくりと上向きのやじるしを押す。 思ったよりも早くエレベーターの扉が開

          連作小説【シロイハナ】4

          連作小説【シロイハナ】3

          優先することはこれからの生活だ。母が退院できたときに生活が儘ならない状態であれば、それこそ不安が募り、より一層母を苦しめることになってしまう。目の前の母の痛みに寄り添うことは確かに大切なことだ。ただ、それを続けていてもこれから先も続いていく生活が保証されることはない。 一刻もは早く自立しなければ、せめて母が病気を抱えながらも経済的にだけでも安心できるように成長しなくては、そうだ、それが、俺にできること。自分を成長させてしっかりお金を稼いで安心できる環境を作ること。よし!やる

          連作小説【シロイハナ】3

          連作小説【シロイハナ】2

          弟は本当によく母のことを思ってくれていた。病院に通う回数でさえ僕とは比にならなかった。忙しいにも関わらず、仕事が終われば高速を使い病院に通った。母に直接優しい言葉をかけ、大丈夫だと近くで寄り添い不安な母を励ましてくれる。本当にすごやつだ。ありがとう。 あまり暖房の効いていないカフェテリアで背中を丸めながら何の規則もない机の木目をただ一点に見つめ、そのお店おすすめのオリジナルブレンドを少しぬるいなと思いながらひとり啜る。履き慣れたブルージーンズが少し寒く感じる。 考えていた

          連作小説【シロイハナ】2

          連作小説【シロイハナ】1

          奇跡。そのようなものは本当にこの世の中に存在するのだろうかとふと思う。そして、存在していてほしいと切に願う。 ある朝雪が降った。あれはもう2年以上も前のことだろうか。12月、もうすぐ年を越そうとしていたあの冬。少しずつ気温も下がり、ラッキーカラーの黄色いダウンジャケットが妙に温かく感じたあの冬。忘れもしない朝があった。 母はかれこれ8年くらい前から病を煩い、病気と闘っていた。僕たちのいる前ではあたり前のように元気な姿を見せてくれていた母。乳ガンだと宣告されたその当初は、僕

          連作小説【シロイハナ】1