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「文武両道」から「文武融合」への未来を、筑波大の箱根駅伝出場に見る
2020年、筑波大が箱根駅伝に出る。かわって、平成に箱根で名を上げてきた新興大学の幾つかは厳しくなっていきそうだ。この裏には「文武融合」(仮称)な流れがあり、令和の時代に進むのではないだろうか?
筑波大チーム
文武融合(仮称)とは何か? 筑波大の駅伝チームから説明していこう。(※初稿から編集してます)
まず注目するのは、学生たちが創業経営者のごとく主体として進める組織づくりだ。ミーティングや目標管理シート作成などしているとの記事があり、こういうの形はマネできても中身を入れていくのが難しいよなと思っていたら、弘山勉監督の公式ブログで解説が来た:
7月前半ごろまで、学生によるチーム改革、という時期があったようだ。文春によれば、「本当にすべてを懸けて、箱根駅伝を目指せるの?」と多い時には週に5回、各4時間、集団としてまとまった意識を持てるかをずっと話し合っていたそう ↓
この間は練習が十分できなかったばかりか、トラック集中などの理由で10人ほどが箱根チームから離脱、影響は大きい。
そこから100日間あればフィジカルを上げるのには十分。選手が減っても実力アップが上回り、組織づくりへの投資が後々に効いたようだ:
" 学生たちの練習に対する姿勢や取り組みに変化があらわれてきた。練習に関するミーティングを頻繁にするようになり、今までできなかった数々のことができるようになってきた "
2ヶ月後の9月の中旬には弘山監督にも手応えが出てきた。
予選会6週間前、学生から「予選会までの練習計画を出してほしい」との要望が出された、というのも興味深い。弘山監督の「練習計画は、チームや選手の状態で臨機応変に考えるべきものである」という持論は僕も賛成していたのだけど、「しかし、学生たちからの強い要望に折れた私は、異例の6週間メニューを出すことにした。」という対応も興味深い。
主体的であるとは、こういうことだ。
今回メンバーは、エントリー14名の学部=体育11+理工2+医学(!)1、とほぼ体育中心で、はじめからそのつもりの本気ランナーが集まっているんだろう。高校時代のタイムからの成長度も気になるところだ。
主将は医学部と箱根出場を両立させるために一浪し入学した愛知・刈谷高出身(=私の郷土愛が刺激されてわざわざ書いた)医学部5年の川瀬宙夢さん、「4years」(朝日新聞が大学スポーツを本気で特集している)によれば、平日は実習後に一人で練習していたそう。でも耐久レースとは結局そういう競技だよね。
去年のインタビュー記事の最後、
❝選手たちが苦々しい顔で絞り出すように言ってきた「来年こそは」の言葉。これが途絶える瞬間を期待したい❞
その瞬間がついに来た!
Twitterのビジュアルから、広報部隊も優秀そうだ。
【#箱根駅伝予選会】
— 筑波大学陸上競技部 (@tsukubathletics) October 25, 2019
いよいよ明日、箱根駅伝出場をかけた予選会が開催されます‼️
26年ぶりの箱根路へ向け、12名の選手が立川の地を駆け抜けます🏃♂️
エントリー選手や応援についてはこちらからご覧ください🔽https://t.co/3vZpCZEySB#醒めて起て#筑波大学箱根駅伝復活プロジェクト pic.twitter.com/MF2pcnbXoL
資金不足のハンデには、合宿やトレーナーさんの費用など年間300万円、累計1200万円をクラウドファンディングで調達してる。この経緯などをランニングマガジン・クリールの元編集長、樋口幸也さんが書いている ↓
そして駅伝監督の弘山勉さん。15年前、「スピードトレーニングでタイムが伸びる」だなんて私の大好物なタイトルの本を出されていて、僕のトライアスロン初期に参考にした記憶が。競技者としては独学でマラソン2:11まで行き、また妻晴美さんの女子トップ選手としての活躍を支えた指導理論は確かだ。最近のブログはさらに濃密ですごい↓けど、更新が去年で止まっているの、今年は駅伝指導に集中した結果だろうか?
「文武融合」の時代へ
こうした動きから読み取ったのが、文武融合、という(僕が書きながら思いついたダサい)造語だ。文武=知的能力とスポーツとが、融合し進化していると思う。この背景にはスポーツ側と大学入試側、それぞれの変化がある。
スポーツ側:
1.スポーツ理論が高度化し、知的能力がより重要に
2.ランニングも同じく、自分の頭で理論を理解し、継続実行できれば、着実に走力を上げられる
大学入試側:
3.学力テストが苦手でも、推薦やAOで有名大に入りやすくなった
4.少子化で、そもそも的に有名大学に入りやすくなった
といった変化が進んでいるから。
これらの結果として、知的能力が高い(※従来型の学力偏差値とイコールではありません)高校生ランナーほど、大学で競技力を伸ばすことができ、かつ、有名大学に集まりやすくなる、というのが僕の仮説だ。
いわゆる「文武両道」の復権だけど、「両道」といっても無関係な2本ではなく、知性が競技パフォーマンス向上に重要になっているのだから、「融合」といった語がふさわしいと思う。(文武統合、も考えたけど同じくらいダサい泣)
ランナーの知性
❝ネット時代、アスリートの成長度は、本人の主体性、思考力に影響される❞
というnoteを8月に書いた↓(note公式「編集部のおすすめ」に採用いただきました)
「思考力」とは、今の自分に必要なものを自分で探り当てること。「主体性」とは、「自分株式会社」のオーナー経営者として、自分なりに実行しながら成果に結びつける姿勢。
その好例はラグビーワールドカップだと思う。大画面で見ていると、身体、心理、チーム、戦術、と多様な能力が高度に必要なことが伝わってくる。ランニングのようなシンプルな競技でも同じだ。昔よりもはるかに良質な情報が大量にあり、主体性をもって思考し実行していけば、確実に成果を上げていけるのがランニングだ。チャンスは限られた強豪チームだけではなく、だれにでも拡がっている。
大学入試の変化 〜もはや「箱根だけ」ではダメ
大学入試の変化も見過ごせない。「スポーツ推薦のない筑波大が…」など言われるけど、実際には国公立大でも「スポーツを武器に入る」という道は拡がっていると思う。たとえば筑波大H31.入試データを見ると、学力テストの定員=1500弱、推薦+AO=630、あと海外系など特殊枠。
ちょうどダイヤモンドOnlineに「国立大「AO・推薦入試」対応度ランキング・ベスト82」との記事があり、筑波のAO・推薦比率30%は、82校中13位の上位だ。(最下位はゼロの芸大、やはり芸大は特別であり続けてほしい😁)
推薦AOでも学力は必要だけど、テスト一本よりは戦略的自由度が高く、スポーツを使いやすい気がする。この傾向は私立有名大ではより鮮明だ。このルートが狭いのは今時点で東大京大くらいだろう。
こうして、知的能力が高い高校生ランナーほど、有名大学に集まりやすくなっていると思う。
逆に、新興大が「箱根だけ」で知名度を上げる平成の成功パターンは、厳しくなってゆくのではないだろうか。
事例: 自ら学び成長する帝京ラグビー
ただし、「箱根も、それ以外も」というハイブリッドなら、むしろ可能性が拡がってゆくと思う。その好例は、大学選手権を9連覇(2009-2018)した帝京大ラグビー部。伝統校である一方で、いわゆる大学偏差値ランキング的なのではそう上位でもないのだろうが、帝京ラグビー部の総合的な知的能力は日本トップレベルだと思う。
岩出雅之監督の著書『常勝集団のプリンシプル 自ら学び成長する人材が育つ「岩出式」心のマネジメント』 (2018)には、タイトル通りに、部員たちが自ら学び成長している理由がよくわかる。
自ら学ぶ=自分で問題意識を持ち、自分で考える=上から押し付けられないということ。そのために4年生たちが自主的に勉強会を開き、「どのような投げかけをすれば、下級生が自分で考えるようになるか?」を考え、情報共有していると。
普通の有名大企業とかよりもよっぽど知力、リーダーシップ、高度ではないだろうか。
最近進んでいる大学改革はこのような変化を目指している。それを「具体的成果」を伴い、自己肯定感を伴いながら先導できるのは、大学スポーツの大きな武器だと思う。
付録1.予選会エクセル分析
以下オマケ。私は今回TVは録画もしてなかったのだけど、展開をざっくり知るのに、記録表をExcelにまとめたこの表がすばらしい。自称「素人」がここまでまとめるとは!
#96th箱根駅伝
— ぶっっ@大学駅伝 (@tururinnko) October 26, 2019
箱根駅伝予選会 大学別個人成績(細かすぎるver.)①(東京国際、神奈川、日体大、明治、創価、筑波、日大、国士舘)
(参考: https://t.co/eMdZGKJjXR) pic.twitter.com/DCespBY6Fy
トップ通過の東京国際は、超エースのヴィンセントを先頭で、準エース4人は集団先方でギリギリくいてタイムを稼ぎつつ、残り7名は大集団の後方で体力を温存させながら、5km以降から順位を爆上げ。チーム戦術としての統一感と、個々の戦力の最大発揮とを両立させているようで、レース展開も今回勝者にふさわしい。
筑波も似ていて、上位5人は先頭集団で少しづつ上げ、ほぼ1時間4分台で揃える。下位7名は後方から無理なく入り、じわり順位を上げ、10位まで1時間6分台に収める。上位組は上位なりにタイムを稼ぎ、そうでない組はそうでないなりにタイムを落とさない役割分担が効いている。しかも安定している!
最下位通過の中央は、スタートでほぼ全員が前側にいて、下位メンバーが順位を落とす中で、ギリギリ間に合った感じ。
26秒差で落ちた麗澤は逆に、ほぼ全員が後方からスタートして上げていったけど、追い付ききれなかった。結果論だけど、力のあるランナーが前半からタイムを稼ぎにいけてたら違ったかもだ。それもまたスポーツ!
山梨学院は、全員が後方スタートし、5−10kmでみんな一緒に上がってゆき、10−15kmで半分以上が脱落、15kmからさらに脱落、といいところがなかった。
まとめると、強い選手で攻めながら、そうでない選手も確実に貢献する、チームとしての統一感あるところがうまくいっているかな。
付録2.箱根の歴史と大学経営
ついでにWikiで箱根の歴史をざっくり眺めてみた。
初回が1920年。これだけHENTAIな奇行がお正月の都心から人気観光地まで公道100kmを使いながら100年続いているのは凄い。。1980年代ごろまでは体育教師も多く輩出する大学が多いかな。1984年には東京大学17位(記念大会で5枠増)という記録もある。
日テレ系のTV生中継が1987年から。以降人気が急上昇、高校生ランナーの憧れとなりレベルも上がってゆく。21世紀に入ると、新興大学が箱根で知名度を上げるマーケティング戦略で成果を上げはじめ、高校生有力ランナーの争奪戦も激しくなっていったようだ。「プロ化した」と弘山勉コーチは表現している。
このタイミングとは、大学が日本中に増えていった時期と重なる。これら「箱根だけ」のPR効果が平成には効いたとしても、令和の時代は逆回転してゆく。放っておくと有名大に力負けするようになり、新興勢力には新たな価値が必要になってゆくように思う。
TV中継の1987年に初出場し、33年出続けていた山梨学院大は、今回惨敗。近年の攻めた感じの経営スタイルへの評価が分かれる中で、生徒募集などへの影響は気になるところではある。批判も大きいだろうけどけど、それはそれで大学経営の1つの道であると思うし、かれらなりの道を拓いてほしいとも思う
・・・
あくまでも予選。本番は2020年1月。トップの写真は江ノ島、その向こうが箱根だ。みんなベストパフォーマンスを!
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