GPSウォッチの選び方 〜性能はメーカー不問、「最新モデルか」でだいたい決まる
数百万円の高級腕時計を人生のトロフィーのごとく愛用していた仕上がったオジサンが、スポーツ始めて、数万円のGPSウォッチに夢中になるのはよくあること。なぜか?
単なるモノを超え、「自分の身体パフォーマンスの象徴」になるからだ。身体性能が高まるほど、その象徴の主観的価値もまた高まるのではないか?
(GPS系から高級ウォッチへと逆走した事例発見:フランスのスター自転車選手アラフィリップ、レース中に1,300万円の時計を。ツール・ド・フランス2020中にもつけていた。自転車が8台も買える!転びたくない!)
そんなわけで、GPSウォッチへの愛ゆえに情報収集への熱も上がり、SNSなどで「◯◯社のは正確」などの情報をよく見る。実際どうか?と、トライアスリート目線で情報を整理してみたよ。
結論を先に書く:
だから、バッテリー持ち時間とかの必須条件さえクリアすれば(※ここ超大事)、あとは店頭で見たデザインとかのフィーリングで選ぶくらいで、だいたい、いいと思う。
まず全体構造を把握しよう。GPSウォッチ周りのデータの流れは:
うち進化が最も速いのが中間部品(メーカー共通)である③半導体なので、GPS性能の進化速度はGPSチップの進化速度次第となる。半導体の集積率は18か月で2倍になるという有名な経験則がある。3年で4倍、逆にいえばハイエンドモデルも3年で1/4へと減価する。
だから、新チップ搭載製品に買い換えれば、どこの製品であれ、GPS性能はより正確になる。A社からB社に乗り換えれば「B社は正確!」てなるし、A社内での買い替えなら「やっぱりA社正確!」てなる。
現在、主要メーカーから中華(※マトモなのに限る)まで、全てSONY製だそう。
やたら詳しいメチロンさんブログ「GNSSウォッチ内蔵チップの変遷と年表」(2019.9)に主要各社のチップが整理されている。
GPS各社(=Garmin, Polar, SUUNTO)は出自も設計思想も異なるので、同じ半導体を使ったとしても仕上がりは変わる。2019年8月に140字のツイート1つしたら、いろいろ情報集まって、整理したら8,000字に。まあ結論は書いたから、以下はお暇な方限定で。(最終更新2020/09)
GPS性能の判断法
それは超シンプル、走った軌跡を地図モードで見れば一発!
つまり、地図の軌跡のチェックは、毎練習ごとに必要。
こちらは2017年9月、SUUNTO SPARTAN SPORTで渋谷/代々木の織田フィールドを走った時のもの。
外にブレてるのは外を走っているからで、かなり正確。ただし、お天道さまの気分(=太陽フレアなど)次第でブレるものだし、この画像でも幾らかのブレは出ている。400mラップを秒単位で気にする方は、ストップウォッチでタイム計測したほうがいい。
あくまでもタイムが主であり、GPSを信用しきってはいけない(信頼性はかなり上がっているとはいえ)。定番の練習ルートがあるのなら、ネット地図を利用して距離計測しておけば、GPSの不調時のバックアップにもなる。僕もGPSウォッチ入手までの間はこの方式で、「だいたい1km」とか「1.8km」とかの定番ルートのタイムを、最初はGショックとかで取って、その日の一番いいタイムだけ覚えてメモしたり。
複数機種を比較したいのなら、2つ同時につけて走り、その軌跡を比較すればいい。たぶん、同じ時期に発売された複数メーカーの製品では、優劣はほぼないのではないだろうか?
各社ごとに個性はある。よくいわれることを整理しよう。
Garmin
ガーミンはアメリカの軍事用という出自により、車載と自転車が強く、想定速度が速い。SONYチップは高速走行でコーナーがカットされがちという特徴があるようで、それでは戦闘機とか困ってしまうので、独自アルゴリズムで補正しており、その処理のためバッテリー消費が少し早いと聞いた。(上記ツイート続きより)
また社風的にメカ好き理系文化なのか、車載品がベースだからなのか、いろんなセンサーを搭載して、最も多くの指標を計測できる。その処理にも電気リソースを要する。
こうした経緯からまず自転車乗りに普及し、トライアスロン人気もその延長にある。
エンジニア文化な分、デザインやUIは昔はダサかったけど(僕がはじめた買ったGPSの310とか笑)、この数年はデザインがんばってて、道端カレンさんがアンバサダーになる頃くらいから変わってきた感。この中で、女子率の高いランナー層への普及が進む。(↓2018,08の日経Doors、私が書いてます↓)
高機能な分だけ、ソフトウェアが不安定という評も聞いたり。でもファンにはそれがまた可愛いかったり笑
(2020年7月追記:不安定どころか…)
なおGPSウォッチが使えない場合、ネット地図で、いつもの練習ルートの距離を把握して、タイム計測すればいい。
僕はトライアスロン1年目、定点観測ルートを「この橋からこの電柱まで」くらいの具体性で、Mapionのキョリ測やGoogle-Mapで多次元チェックしながら距離把握し、カシオG-Shockのストップウォッチ機能でタイム計測していた。(2年目にGarmin310を3万円で入手)
Polar
ポラール(英語だとポーラーという発音が近い)は医療系の心拍計出身なので、とにかく心拍計測重視。最近では光方式の手首計測機能の評判いい。だからインドアなジムとかのトレーナーさんとかも好きだったりする。
僕も2010年にトライアスロン用にランニングを始めてから、最初に7,000円くらいで海外通販した心拍専用機がPolarだった。
SUUNTO
スントは、ヨーロッパの山歩きのコンパス出身なので、低速かつ長時間の正確性を重視する。低速なら補正アルゴリズムいらない。また計測指標も総じて少なくてシンプルなので、消費電力が少なめで、バッテリー持続時間が長い。だからレース時間の長いトレイルランニングで人気。
僕は2011年横浜トライアスロン優勝賞品で心拍専用のt4dを貰ったのが最初。操作が直感的で、Training-Effectの指標もわかりやすい。そこで、GPSは左腕のGarmin310、心拍は右腕のSUUNTO、と同時使用してた。2014館山の優勝賞品でGPS付きのAmbit2を貰い、以来SUUNTO一本です。
今は「9」。消費電力が大きな最高精度モードでも25時間という圧倒的なバッテリー性能は、ストレス源を圧倒的になくす。後発で6g軽い66gの「5」では最高精度モード20時間。僕の使い方だと、これくらいはあってほしい。
SUUNTO9「BARO」の気圧計は、標高が地図データに加えてより正確に補正されるので、自転車でもランニングでも、山に入る人にはいいかも。あと台風で少し楽しめる?
2020.9.23まで最高70%セール中。Amazonも引っ張られててオトク。ただ、5や9はともかく、割引率高いそれ以前のモデルは「最新モデルか基準」では劣る点はご注意。
(ちなみにSUUNTOでも不評なのが、2017夏秋ごろ発売された"SPARTAN TRAINER WRIST HR"。そのベースとなる"SPARTAN SPORT"は2016年9月に6万円台で発売、僕も以前使ってて満足(冒頭の画像)。TRAINERはぱっと見同じ、心拍数の手首計測という素敵な機能まで付けて3万円台で発売。これシリアスアスリートの評価では使い物にならない。
これは製品企画の問題で、SPORTは高性能で競技志向、TRAINERは低性能で運動できればいい人むけ、というすみわけを狙ったんだと思われる。だがその区別が不十分で、シリアスランナーが安い方を間違って買わないよう工夫が必要だった。。)
一見して不自然な低価格には、実は自然な理由があるものだ。
Apple Watch
なぜSPARTAN TRAINER さんこうなった?と考えると、GPSと手首心拍計測が初めて搭載されたApple Watch Series 3への恐怖ではなかろうか? 日本発売2017年9月に4万円で発売。この対策から、価格と機能を先に決めて、低価格パーツをはめ込んだとしても、不思議ではない。(この競争になればアップルさまにかないません…)
この時期、GARMINさんはスマートウォッチ的な機能拡充に走っており、それはそれで魅力感じるユーザーさんいたはずだけど、機能拡充とはシステム不安定化とのトレードオフになるのはシステム構築の基本でもあり。
ただ実際、コアなアスリート層が、トレーニングやレースでAppleを使い続けているのを見たことがない。トレーニングは専用機、日常はApple、と使い分ける人も多いと思う。始めから競技に特化して筐体もシステムもデザインされているから、衝撃耐性も、バッテリーの持ちも、別物だと思っていい。(2020.09時点で心電図系機能が日本国内でフルには使えないのも残念)
大事なことなので強調しておくと:
GPS各社が恐れていた事態は起きておらず、これからもそうだと予想する。ということは、Apple Watch的な機能(SUUNTOならAndroidの7とか)を載せるほど、スポーツウォッチとしての機能性は落ちてしまう。
だから、用途は明確に分けたほうがいいのではないだろうか?
中華製:Xiaomi
中華品 "Xiaomi Amazfit Bip" には、TJAR2016を完走された「みさご」さんが人柱としてレビューしている。
↑↑↑↑おねだん4ケタ! !!!
僕の感想としては、レースとかポイント練習とか考えると最高レベルの信頼性はほしいと思う。日常のファン的練習でならこの価格は素晴らしい。(ならApple Watch という手もありそうだけど)
この急激進歩の背景を考えると、米軍にとってのガーミンのようなものが、人民軍さんにも必要なわけで、開発費が潤沢に供給されていそうだ。残りは売れば売るほど儲かるわけで、民生用はダンピング気味にばらまいても採算はとれる。(かくして米中対立が…)スマホと違って仮にデータになにかあっても実害もそうはなく?
タイトルに「メーカー不問」と入れたのは、この製品の存在もあり、ただし「中国のトップ企業と、Amazonにいっぱいいるそれ以外」との差は大きい気もする。
選び方
最低限必要なのは、最高精度でのバッテリー持続時間。ここは絶対的要件で、自分の使い方次第だ。またApple Watchなどより圧倒的アドバンテージがある。長いほど重く大きく高くなる。少し長すぎるくらいがストレスないだろう。劣化して短くなるものだし。ただ、安めのを買っておいて、劣化したら早めに買い替え、という手もあるので、お好みだ。
そこから先はフィーリングで良いのではないかな? ようするに、店頭で実物見れたら、一番好きなデザインのを選べばいい。
新製品が出ると、最新機能アピールなどがメディアなどに出てくるけど、どうせすぐに飽きると思っていて、僕は無視している。
あとは、英語で製品名を検索してレビューを探す(+Google翻訳する)といい。日本語ではやはり母数が少ないのと、海外が先行発売してることが多いから。
たとえば、www.triathlete.com 2019/8/30記事によると、
・Garmin Forerunner 945($600)=すごい高いけどすごい高機能
・Suunto 5($330)=ハイエンド級の機能を網羅しほぼ半値でコスパ高い(けどANT+ 対応してないのでパワーメーターとか注意)
・Polar Vantage M($280)=コスパ最高、GPSの正確さと速さに難あり
など。これら3製品は、それぞれ知人が使ってて、それぞれ高評価してるので、細かい差はあっても、トータル性能では問題ないだろう。あとは操作性とかデザインとかの好みにもよる。
ユーザーには「自分が使っているものは好きになる、ただし期待を裏切られていない限り」という心理がある。操作に一度慣れると他のに変えたくないロックイン効果がうまれる。自分の好きなもので、身体に密着させる道具でもある。すると、長所を探し、短所には目をつむるようになる。これらは機能とは別の「社会的要素」であり、本人は意識してなくて、レビューにも出てきにくい。
ただ、最初に使いはじめた時に、周りからいろいろ教えてもらえると楽なので、そういう人がいるのなら、信じたほうが結果的に効率的だ。
以下オマケ:心拍計測機能の真実
GPSウォッチには心拍機能もセットなので、少し触れておこう。手首計測機能が人気だけど、SUUNTOでは、普通より少し上=ヒジ側にズラしてセットする必要がある。GARMINもこの方法で改善するらしい。
参考:手首から心拍数をより正確に読み取る方法 by SUUNTO公式
僕だとキツめに巻かないと手首側に落ちてきてしまう。動きの激しい高負荷だとかなり締める必要があり、ほぼ無理。
低負荷、心拍変動も少ない、動きも激しくないのなら、それほど気にならないともいえる。ジョグとかなら、ストラップ不要な楽さがマイナスを上回る。
心拍ストラップは、高負荷で、動きも激しく、心拍変動も大きいなら、面倒がらずに使ったほうがいい。交換用のはスントなら2,000円代で買えるので、劣化してきたら交換すると快適↓↓↓ (ふだんから石鹸でちゃんと洗おう)
バッテリー性能の真実
バッテリーも中間部品で、各社とも条件同じ。スマホや電気自動車など超巨大市場の超コア部品で、開発競争は超激戦なので、性能差は少ない気もする。すると、どれだけ容量を確保するか=どれだけ重くするか、により決まるだろう。軽いか、長いか、どちらかだ。
持続時間は、あくまでもメーカー公称値だし、使っていくと確実に減ってゆくものだ。この時間は、想定よりも何割か余裕を持っておいたほうがいい。
いずれにせよ劣化要因が大きいから、新品を買い換えれば改善するのも電波と同じだ。
GPS衛星「みちびき」の真実
では、日本独自のGPS*衛星「みちびき」対応はどうか?というと、結論としては、ほぼ変わらない。(*GPS=Global Positioning Systemとは正確にはアメリカの仕組みで、それ以外も含めると「GNSS」だけど、以下GPSで統一します)
たとえば、こちら山歩き趣味の方のページ、大手メディアも理解できていないテーマ(ページ最後参照)を、豊富な情報量で説明しててすごい。:
まず区別すべきは、世界的に公開される粗い「補完信号」と、国限定が多い高精度の「補強信号」だ。
「補完信号」は、衛星をどれだけ捕捉できるか、による。飛んでる衛星は、無料アプリ"GNSS View"などで確認できる ↓
スポーツやクルマやスマホのレベルで使われる。宇宙空間のGPS衛星と、地上の端末との距離を、光の届く時間をもとに計算される。光速度だから相対性理論を計算に使う。ということは全ての時計が完璧に正確であるのが前提で、衛星には超高性能な時計が複数搭載され、その情報を地上のGPSのウォッチは受け取って補正している。衛星の位置は軌道計算でわかっていて、4つの衛星からの電波を捕捉できれば、地上側の位置=座標も計算できる。(らしい)
なので、こまめにスマホ/PCにつないで、衛星位置(軌道がズレるからかな)や時刻をアップデートすることが必要。
このレベルの電波は、衛星からの国籍には関係なく、他国へも公開されることが多い。受信可能な衛星の数が大事で、「みちびき」4機は、日本上空に滞空する時間が最も長くなるように軌道設計されているので、確率を上げるはず。これを日本政府の公式発表では、「アメリカのGPSの補完」と説明する。
だけど、実は既にロシアの衛星「GLONASS」(グロナス)21機により、既に日本上空もカバーされているから、「みちびき」独自の効果はそんなにはない。ただ、高いビルの谷間、深い谷の中、森林などでの衛星の捕捉率は上がる、
みちびき対応は、ガーミンのイメージが強いようだけど、僕のSUUNTO9なども対応している。内閣府「みちびき」サイトに掲載されてるのは一部の製品だけだ。スントの場合、アメリカGPSメインに、ロシアの「GLONASS」も受信する。ヨーロッパでは「ガリレオ」など各地域のをメイン受信するんだろう。これら衛星はGPS精度を「Best」に設定すると受信し、その分、電池消費は早くなる。
より高精度のGPS電波が「補強信号」だ。「みちびき」には2種類あり、
1)サブメータ級測位補強サービス=1-3m誤差、電気消費が大きくスポーツ時計には不向き
2)センチメータ級測位補強サービス=10cm未満目標、レシーバ装置が高価でスポーツ系は対象外
日本が独自衛星を持ちたい理由は、なによりも安全保障目的。そもそもがGPSのとは軍事技術だから。アメリカもロシアも、衛星は2-3種類のGPSの信号を出していて、一般的な「補完信号」は全世界公開するが、高精度の「補強信号」的なものは自国政府専用だ。日本の補強信号は、まずこの領域をカバーするものだ。(中国も多数の衛星を飛ばしてて、中華GPSが成長するわけだ。電波は公開していないと思う)
ただしネットが入る場所なら、みちびきを使わずとも、レベル1の補完信号だけで10cm精度での把握は既に可能で、Panasonicが20万円以下で発売中。だから、過疎地や山奥などが、みちびきの第一のターゲットエリアといえ、人口減少時代にむけた農業や土木分野での効率化を目指した仕組みといえる。
半導体以外の要因
冒頭ブログによれば、たとえば台湾のMediaTekは、MT3332/3333がGarminの ForeRunner 235, 920XT, 935, Fenix 3,5と実績がある。SUUNTOは唯一Spartan Trainer にMT3339が使用されたが、これが評判悪い。
SUUNTOは、僕が使用経験あるAmbit2, Spartan Sport がSiRF (現Qualcomm)、現在使うSuunto 9がSONY CXD 650X系だ。つまりは、MediaTekの扱いにだけ、失敗した形といえる。これは後述しよう。
半導体の進化を活かすためにも、上記②のアンテナ設計などはやはり重要だそうだ。チップだけで決まるわけでもないということで、初稿を訂正しておこう。アンテナとはどんなものかというと、AppleWatch3を分解した記事では、この左から3つ目の上の、筐体の縁に沿ったやつだ。(スマホでは基盤そのものと一体化してるものが多い)
結論
最新モデルを買い替え続ければ快適! 3年に1度くらい買い換えるくらいのつもりで予算組みするのがよいだろう。
メーカー選択はお好みだ。たとえばスポーツカー好きなら、予算同じでも、BMWか、ポルシェか、国産最上級スポーツカーか、選ぶ理由は最高時速とかスペック以外のところで明確にあることだろう。それはスポーツウォッチでも同じことだ。
(しかしソニーすごいな。SONY新チップ開発計画に合わせて、各社がウォッチ開発に入る絵が思い浮かぶ。昔のパソコンの「Intelはいってる」的な。対抗して「SONYだにー」(三河弁=私の地元に主力工場あるもんで)
サポートいただけた金額は、基本Amazonポイントに替え、何かおもろしろいものを購入して紹介していきたいとおもいます