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"無自覚な恐怖心"を乗り越える - 100H日本新、寺田明日香さんの出産&ラグビー経由の10年間

19年破られなかった女子100mハードルの日本記録を、9月1日、29歳の寺田明日香さんが12秒97で更新。20歳前後のピーク期から10年近く、出産、ラグビー転向と、一見、大きな回り道のようでもあるけど、なにしろ金沢イボンヌさん以来の19年ぶりの日本新記録だ。大きな壁を破るためのヒントがあると思う。

なぜできたのか? 「極端に振ってみることの効果」ではないだろうか。

経歴

寺田さんは、2009年に世界ジュニアランキング1位、U20日本記録の13:05を記録した元日本トップ選手。でも23歳で摂食障害ぽくなり、貧血・疲労骨折とニッポン女子ランナーあるあるパターンで引退。結婚・出産後、2016年12月から2年間、五輪種目の7人制ラグビー日本代表チームで練習生として東京五輪を目指すが断念、トラックに復帰し、9カ月での達成だ。いまやトップアスリートの産後復帰は珍しくないけど、別競技転向後の復帰なのがおもしろい。

注目①心理

成功要因は、大きく、①心理、②筋力、③それら総合しての動作改善、ということだと見る。

まず最初の陸上引退から、ラグビー時代、復帰までの心理について、「渋谷のラジオ Track Town SHIBUYA」で「女子ラグビーから陸上に復帰したママさん選手」(2019年5月31日放送)で、横田真人さん(800m日本記録ホルダー、コーチ、米国公認会計士)などを相手に、詳しく語っている。

7人制ラグビーは2016リオから五輪種目、日本女子は競技人口が少ないので、トライアウトで未経験者を募集し、アジア王者獲得などの成果をあげている。日本女子代表「サクラセブンス」(まとまった情報源がみあたらないので olympicchannel 記事を紹介)は、リオ五輪には出場するも12カ国中10位と目標達成できず、監督などが交代。新たなチームを作り始めた頃の2016年12月トライアウトに寺田さんは参加。「その手があったか!」と周りみんな思ったそう。

7人制は走力を活かせるのだが、陸上は直進しかしない競技なので、「止まれない、曲がれない、当たれない」の克服が必要。チーム一体での高度なコミュニケーションが必要な競技でもある。故障もある。五輪前年ともなれば最終メンバーのセレクションも進んでいく。もろもろのハンデを残したまま、「入り込めない自分がいた」と、2年でラグビーを断念。

しかしこの過程で、新たな武器を獲得していたのだった。

身体のブレーキを外す

ラグビー独特の動きに苦労する中で、「ラグビーはどうしたら止まれるか考える。止まる感覚を表現しなければ、前に進む動きとなるという発見をしたと。芝生を走ると、すごく気持ちよく走れる。つまり、今まで気づいていなかった「ブレーキ」の存在に気づき、外すことができたのだった。

たまにトラックを走ってみると、「坂道下ってるみたいに走れる」新感覚があったと。

為末大さんが著書で「日本人はブレーキをかけやすい身体」だと書かれているそうで(あとで確認)、世界トップレベルですら、走動作へのブレーキは大きな課題であるわけだ。(いわんやぼくたちはーーー)

心のブレーキを外す

さらには、「ハードルは(ラグビーの相手選手と違って)私に向かってこない」、という感覚も得たと。

この恐怖心の克服というテーマに対しての、上記ラジオで横田真人さんの反応がおもしろかった。当時、競技復帰を相談され、「人にタックルするよりハードルは怖くない」と寺田さんが言って、「コイツは復活するな」と思ったそうだ。日本記録ホルダーの横田さんですら、競技生活の最後、800mを走るのが怖かったそうだ。

恐怖心に気づき、受け止めて、乗り越えることには、それだけ効果がある、ということだ。

さらにハードルは物理的障害として、女子100mでは84cmという高さで、目の前を塞いでいる。(男子110mでは106cm!高すぎ!)いくら練習して慣れたつもりでも、本能がブレーキをかけようとするんだろう。

でもラグビーでは、日本人男子アスリート並みの身体の欧米選手が、自分に向かってくる。障害のケタが違う。対応のために、国内では男子選手とも練習する。女子トップレベルが国内で仮想世界の練習をするために、レスリングやバレーなどでも行っている必要だと思うけど、あんなのが自分めがけて走ってきて当たりにくるのは僕ならイヤです泣

これらトレーニングにより、「人間という重くてぶつかってくるハードル」への対処では五輪出場レベルには至らなくても、「木製の軽くて止まっててすぐ倒れるハードル」への心理的ハードルなら、超えることができた。

つまり、身体と心のブレーキを外すために、振り切った体験を、真剣にしてみるということの効果。僕も経験していて、改めてまとめようと思う。(※初稿の文章を外しました)

注目②筋力

といって、心だけでスポーツはできず、身体的要因も同時に必要だ。寺田さんは、ラグビーのために全身筋力を高めたことが大きく効いているようだ。167cm50kg(Wiki情報、測定時期は不明)、こちら2枚めのガッツポーズから、上体の鍛え方がよくわかる。陸連さんこっちを1枚めにすればよかったのに笑。筋肉量は少ないとしても、引き締まった強い筋力を感じさせる。

③最終成果

以上まとめれば、2年間のラグビー経験を通じ、筋力が上がり、その制御能力(=脳・心)も高めた、と考えられるだろう。動画で確認してみよう。当日レース映像は個人撮影のものが幾つかYoutubeに。ほぼ正面からのこちらが良角度。(2:18あたり〜、右から3人目の白ウェア)

僕はハードル動作には不案内だけど、素人目に、上体ブレがない。頭の位置、目線が安定している。そしてハードルの超え方が自然で、他の選手のような「よいしょ!」感がない。

これらが、筋力と、ハードルへの(気づいてなかったレベルでの)恐怖心克服の成果ではないだろうか。その結果、東京五輪1年前に戻ってこれたのは、最高のタイミングだよね。楽しみだ。

参考:7人制ラグビーについて

7人制は、コンパクト開催したい五輪向けの競技形態ともいえて、トライアスロンでいえば51.5kmタイプのようなものか。同じフィールド面積で選手が7/15なのでスペースがあり、走れると強い。たとえば男子では100m10.13の記録を持つCARLIN ISLESという、切り返しやタックルのかわしも上手い凄い選手がいる。

ありえない位置関係で抜いてきて凄い。

ちなみに寺田さん、スパイクはAsicsだけどランニングシューズの「On」がスポンサー。海外ではOnのトラック長距離用スパイクの噂も聞くけど、被らないといえば被らない、ただ天下のアシックスさんが今の寺田さんを放っておくか笑

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(進撃の巨犬に立ち向かうストームトルーパー上等兵の恐怖心たるや…)

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八田益之(「大人のトライアスロン」日経ビジネス電子版連載中)
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