『恋』

何千年も生きたように疲れていたし
いつまでも生まれる順番を待つように寂しかった

どんな景色も見飽きていたし
どんな音も聞き飽きていた

でも
あなたの顔は
間違いなく初めて見るもので
あなたの声は
間違いなく初めて聞く音だった

あなたがその顔で笑って
その声で私に「好きです」と言ったとき
私は初めて
世界と目が合った
と思った

だけど私が一度
まばたきをしたら
昼と夜が知らぬ間に
くるくると入れ替わって
あなたの「好きです」は
綺麗さっぱり
誰かに奪われてしまった

それなのに
なぜか世界はまだ壊れない
私は仕方なく本など読んで
その話を
いつかあなたにしたいと願う

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