ARの真の価値は『空間に力を与えること』 |Spatial Computingが変える人とデジタルの関係性
デジタルとの付き合い方が変わってきています。
2019年8月ARゲーム『Pokémon GO』が累計10億ダウンロードを突破し、ARが少しずつ社会に浸透してきました。2016年にリリースが開始されてから約3年でここまできました。
その過程で、新しいテクノロジーが内包する未来の可能性を感じた人も少なくないと思います。その根底ではデジタルがリアルに進出してきている感覚が存在し、未来への期待と不安が入り混じっています。
そんな未来を理解するヒントをくれるのがSpatial Computing。
空間コンピューティングと訳されるこのテクノロジーは、デジタル情報を人間にとって自然な形で扱えるようにする技術です。
今回は『ARとSpatial Computingが変える人とデジタルの繋がり』を探っていきます。
脱・平面
おそらく今この記事を読んでくれている方はパソコンもしくはスマホのスクリーン越しで読んでいると思います。
二次元表現は人類の歴史を象徴しています。
ラスコーの壁画に代表されるように大昔から三次元を二次元に落とし込む試みは行われおり、ルネサンス期には三次元を二次元で表現する遠近法等の手法が発展しました。そして、コンピュータのスクリーンは平面を基調としていました。
二次元化は人類の文化を代表する技術なのです。
ただし、三次元情報を二次元情報に変えるには多大なリソースが割かれました。
今現実になってきている技術Spatial Computingは「脱・平面」を可能にし、「空間インタラクション」を促進させます。
つまり、三次元の世界を無理やり二次元に押し込んでいた時代から、三次元の世界を三次元で扱う時代へと変わりつつあるのです。
Spatial Computingを定義する
Spatial Computingの定義は多岐に渡ります。まだ共通認識が取れていない概念かな、と思います。
おそらく一番簡単な定義は
テクノロジーを現実世界に混ぜ合わせる技術
非常にわかりやすい定義だと思います。確かに、Spatial Computingはテクノロジーが環境に実装されることを意味します。
もともとSpatial Computingは、Global Positioning System (GPS)やGeographic Information Systems (GIS) などの「位置情報」をコンピュータで扱うための技術でした。
一方で近年発展してきたSpatial Computingの概念は、「位置情報」の概念から離れ、人間の「体験」に主軸を置いてリアルの空間とデジタルの空間を同期させることを意味する様になってきました。
もう少し踏み込んだ「Spatial Computingの定義」を見つけるため、この記事を書くにあたって株式会社MESON CEOの梶谷健人さん(以下カジさん)にインタビューを行いました!
カジさんに聞く
カジさん曰く、Spatial Computingには大きく2通りの定義が可能だそうです。
1. デジタル情報を人間にとって自然な形で扱えるようにする技術
「Spatial Computingはデジタル情報を人間にとって自然な形で扱えるようにする技術で、 そのためには立体的・空間的に情報を扱えるようにするもの」だそうです。
既存のデジタルメディアは無理やりフラット(二次元)にされているから不自然であって、本来は三次元に近い立体的・空間的に表現されることの方が自然です。
例えば、 AmazonのKindleは「本の代替物」ですが、デジタルならではの平面UIという限界も抱えています。リアルな読書とKindleを介したデジタルな読書が持つ埋められない溝があり、本の左右の厚みを感じたり、パラパラめくることがKindleでは難しいです。デジタルの本が持ち合わせない「読みごごち」を視覚・触覚を通して自然な形で人の身体に馴染むようにするために、情報を立体的・空間的扱うSpatial Computingが必要になってきます。
Spatial Computingが実装された社会ではデジタル情報は立体的・空間的に表示されていて、人間にとってより自然な形で、より直感的に扱えるようになります。
2. ミラーワールドのインターフェース
環境全てがデジタル化したミラーワールド(鏡像世界)のインターフェースが Spatial Computing だという考え。
パソコンによってデジタルの情報が取り扱いやすくなって、スマホでさらに身近になった。 その究極系がリアルとデジタルの距離が0になった世界、ミラーワールド。
その中でSpatial Computing はミラーワールドに対するインターフェースとして登場します。
Mirror WorldとSpatial Computingの関係はカジさんが以前noteで詳しく書かれていたので、そちらもみてください。
これらの二つの解釈に加え、カジさんは次の可能性についても語ってくれました。
「人間のため”だけ”のコンピューティングではなくなってくる」
AIの存在が社会に登場し始めた際に、AIが自立的に活動していくための下地としてSpatial Computingが必要だということです。具体的にはドローンの自立走行や車の自動運転を可能にするためにSpatial ComputingがAI側のUIとして使用されるようになる可能性があります。
動き出したSpatial Computing
昨年、Magic Leapの製品Magic Leap Oneの販売が開始され注目を集めた一方で、同社が打ち出すコンセプト「Magicverse」も話題を呼びました。
The Magicverse is an Emergent System of Systems bridging the physical with the digital, in a large scale, persistent manner within a community of people. (Magic Leap)
(画像参考:Magic Leap)
Magicverseとは『モノとデジタルが繋がれたシステムの総体』。
そして、そのシステムは人のコミュニティの中で存在するもの。
Magic Leap曰く、Spatial Computing は「場の力 (Power of Place)」を生み出します。
モノの世界で自然資源や土地が重要なことと同様に、デジタルな情報やコミュニティが重要になるとMagic Leapは考えています。
Magicverseの説明ではマイアミ大学の Julio Frenk教授が提唱する「場のパラドクス」を紹介しています。場のパラドクスとは「Spatial Computingが物理的なリーチ、存在感、経済価値を増長させる」こと。つまりは、デジタルが介入することによって物理空間の価値が上がることです。
Spatial computing が与える「場の力」とはそういったデジタルとリアルに相互干渉的な影響を及ぼします。
Spatial computingを実践するために現在ARCloudの研究・開発が積極的に行われています。
ARCloudに関しては別記事で詳しく取り上げます。
ARISEから始まるミライへ
MESONのカジさんにインタビューを行った際に「ARとSpatial Computingの関係性」についても聞いてみました。
梶谷さん曰く、『ARはSpatial Computingの一部でしかない』とのことです。
広義にはSpatial ComputingはARだけでなく、VR・MR、そしてプロジェクションマッピング等の表現方法も含みます。基本的にはARは「目の前の環境に情報を重ねる技術」であり、リアルとデジタルの環境にアプローチ可能なSpatial Computingとはイコールではありません。
8月3日に行われたMESONが主催したARISE。
その副題は”Spatial Experience Summit”と銘打たれました。
「AR Summit」ではなく「Spatial Experience Summit」と名付けられた理由は、『ARの可能性を広げ、Spatialな体験を社会に普及させたい』との思いからです。
Spatial Computingの社会実装を実現するためには様々な分野とのコラボが必須です。
そのためにAR以外の分野、例えば建築、アート、アカデミック等のの人と繋がりを築いていく必要があり、実際にARISEには建築家の豊田啓介氏(noiz)、そして人の感覚を探求する水口哲也氏(エンハンス)がゲストとして呼ばれました。
このことに共感された方は、ぜひ11月に開催される第二回ARISE:Spatial Experience Summitに足を運んでください。
拙い文に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
僕が所属しているMESONは「Spatial Computing時代のユースケースとUXをつくる」をテーマに掲げて活動しています。様々なアセットを持つパートナー企業と組むことによってユニークなARサービスを提供しています。
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