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【#シロクマ文芸部6月】④ポン!

1カ月の全お題を使って一つの物語を作るチャレンジをしています。レギュラー部員は月初めにお題を全部教えてもらえるので思いつきました。今日はその4回目。

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ラムネの音を思い出した途端、俺の記憶ははるか遠くへ飛ぶ。

パパ!パパ!

ポン!と弾ける笑顔がラムネと共にあった。夏祭りの縁日で、海の家で、公園のベンチで。当たり前のようにあったあの笑顔は今はもういない。

「パパは私を認めてくれない」

拒否をしたつもりはなく、常に娘が選ぶ進路を黙って見守っていたのだ。どうして娘がそう思い込むのか俺にはわからなかった。妻が、しかめっ面で言葉少ない俺に娘は深い深い溝を感じてしまったと教えてくれたのだが。理由がわかっても俺にはどうすることもできなかった。

大学を卒業と同時に娘は家を出て行く。妻とは連絡を取っていたので元気なのはわかっていた。式は挙げなかったが結婚もしたらしい。妻に「会いに行こう」と誘われたが、娘の冷たい目を思い出すと足がすくんで行けず、妻は寂しそうに1人で会いに行っていた。

葬儀で久しぶりにあった娘は、

「最愛の妻がなくなっても涙のひとつもなし?」

と俺をなじり隣にいた男にいさめられていた。連れ合いだった気がするが、魂をどこかへ置いてきた俺には娘もその男のことも目に映らなかった。

なぜこんなことを急に思い出したのだ?

公園内の自動販売機の前でふと我に返る。そうだ、この子がラムネを飲みたいと言ったからだ。紫陽花色の傘の下でニコニコとする顔を見ているうちに娘を思い出してしまったのだ。

「おじいちゃん、ラムネある?」
「自動販売機にはあるかなぁ」

そう話をしていると。

「ママ!」

女の子が嬉しそうな声をあげた。そうか、母親が迎えに来たか。そう思い、顔をあげると。

「お父……さん?」
陽奈ひな?」

娘が立っていた。妻のゆかりの面影を色濃く残して。

「ママァ!」

傘の下から陽奈にパッと駆け寄る女の子。ママ?この子は俺の孫?

あまりの出来事に紫の傘を差したまま呆然としていると陽奈がプーっと吹き出した。

「お母さんが、お父さんのことを面白いと言っていたけれど今わかった」

目に涙を浮かべ笑う姿はまさに紫そのものだった。俺は紫の傘を差しながら大きな声で泣き出す。

「ちょっ!お父さんったら!」

慌てた陽奈が俺を公園の東屋あずまやへと連れていく。女の子は心配そうに、

「やっぱりおじいちゃん、ポンポン痛いの?」

と聞いてくる。

「ち……がう、君のおばあちゃんにママがそっくりだから」

それを聞いた瞬間、陽奈の目からも涙があふれた。

「お父さん反則!それ今言う?」
「ママァ!泣いちゃダメ!」

とうとう3人でワーワーと泣き出した。月曜の公園は雨で誰もいないと思っていたのに1人の男が走り寄ってきたので、俺は驚き涙を止める。

「だ、誰だね、君は!」
「パパァ!」

女の子が飛びつくと、その男はぱっと抱き上げる。嬉しそうに笑うその顔はラムネの音と共に思い出された娘の顔にそっくりだった。

「お父さん、去年会ったのに覚えていないの?」

涙を拭きながら陽奈が言うのだが、全く記憶にない。

「やはり夏也さんの言う通りだったか」

俺のポカンとした顔を見て少しおかしそうに笑った後、

「ごめんね、お父さん」

そう言うとなぜここにいるのかを説明し始めた。

葬儀の場で涙ひとつ流さない俺を冷たいとののしり、その場を立ち去る陽奈に、

「それは違うと思うな」

と夫の夏也君が言ったらしい。あれは悲しみのあまり涙ひとつ出ない顔だよ、そう言う夫の言葉を「お人よし!」と否定した陽奈。遠く離れても温かく見守ってくれた母親が亡くなり、陽奈の心は俺への憎しみでいっぱいになってしまっていた。

母親の死を認められない陽奈は葬儀の途中で席を立ってしまった。諫める夏也君と孫の毬花まりかを連れて。夏也君に

「近い関係であるほど何も見れてないものだよ」

と何度も言われ、陽奈の心は少しずつほどけていったそうだ。お義父さんに会いに行こうと言われ来たのはいいが直接、家を訪ねるのではなく近くにホテルを取りグズグズしていたのだとか。

その間に俺と毬花は互いを知らずに会っていた。雨が降り出し俺が帰ってしまったため、陽奈と夏彦君には会わなかったらしい。あの時、傘を開いていれば、1日早く真実を知れたのに。

俺の頑なな態度に業を煮やして妻は夢に出たのだな、そう思うとなんともいえない気持ちになる。それが顔に出たのか、陽奈が俺を見てクスリと笑う。紫に、似ている。

しかし、葬儀の時に娘になじられたことは覚えていたが、夏也君と毬花のことは全く覚えていない。申し訳ないと謝ると、

「それだけショックが大きかったのですよ」

と夏也君が言う。毬花がスルスルと俺の側にやってきて、

「ポンポン痛いの飛んで行けぇ~」

と小さな手で腹を撫でてくれた。

「ありがとう」
「お父さん、笑えたんだ」

陽奈が驚いた声を出す。

「俺はいつも笑っていたよ。お前とラムネを飲んだ時も、紫と共に暮らした日々も」

私、なにも見ていなかったんだなぁと呟く陽奈。その姿は紫ではなく、ラムネを上手く開けられずションボリとしていた小さな頃の陽奈を思い出させた。

「紫陽花がポンと咲いて、傘がポンと開いて、おじいちゃんがポンと笑った」

そういうと毬花は嬉しそうに笑った。紫の傘をクルクルとまわしながら。

小牧幸助部長、今月も書きききりました🙌
来月も新たな物語に挑戦します!

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