ブックショートアワード12月期落選「ペロの恩返し」(4645字)
やっと結果が出ました。公式から「締め切り後1か月半くらいに優秀作品を発表」と説明があったので、12月末締め切りなならば2月半ば発表だろうと落選供養の記事を作成して投稿を待っていました。
まぐれで入選したせいで連絡方法を知ってしまい余計にヤキモキ、連絡がないから落選かと公式サイトを確認するとまだ発表にならず。
落ちたなら落ちたと早く教えてぇ!
と叫んで走り回りたかった2か月半でした😂
では落選した作品を公開させていただきます。
お時間のある方のみお付き合いくださいませ。
📚🐈📚
『ペロの気遣い』(二次創作元:長靴を履いた猫)
長靴を履いた猫じゃなくて長靴に入った猫だねとルナは言い、クスっと笑った。クラスが同じで家も近くだったのに、2人だけで話したのは小学校5年生の冬休み。飼い始めた仔猫と玄関先で遊んでいたときのことだった。
「ペロ!長靴に入っちゃダメ!」と引っ張り出そうとしているところにルナが通りかかったのだ。
「ちっちゃくてかわいい。ペロって言うの?」
「うん、うちに来た時に僕のことペロって舐めたから」
「そうなんだ」
たったそれだけの会話とルナの笑顔が何年もの間、僕の心でキラキラと輝き続けた。
小中とほとんど話が出来ずにいたが、入学した高校は同じ中学出身が少なかったこともありルナとの仲は自然と縮まった。わいわいと男3女3で集まるグループでの付き合いではあったが、それでも気軽に話ができる関係であるのは幸せだった。
「ペロ、元気?」
「ああ元気だよ。もう長靴に入れないくらい大きくなったけどね」
「あの小さい仔猫がね」
「今度、ペロに会わせるよ」
「ホント?うれしい」
朝のなにげない会話にソウタが「なになに」と首を突っ込んできたので、スマホに映し出されたペロを見せてやった。
「お前って、今流行りの猫の下僕?」
「下僕って……。猫様は世界平和の象徴だぞ!」
ソウタはルナと俺が話しているとすぐに割り込んでくる。こいつ絶対、ルナのこと好きだ。イラっとしながら猫様に謝れぇと軽く首を絞める。
「もう、じゃれ合いはやめてよ」
とクスクス笑うルナ。でかい猫だなぁというソウタに、
「小学生のときはすごく小さかったのよ」
と懐かしそうに話すルナ。お前ら小学校から一緒だったなと言うソウタに思わず優越感を持つ。お前よりずっとルナとの時間が長いんだよと心の中で胸を張った後、その割にソウタと僕のルナとの距離が同じような気がして寂しくなる。キラキラした初恋の思い出に影が差した気がして、頭をブルブル。
「おかしなやつだなぁ」と笑うソウタを軽く睨んだあと、チラっとルナを見た。
大きくふてぶてしくなったペロを見たルナは感慨深げな顔をしていた。全体は少し色の濃い茶色なのに腹と後ろ足だけは白い模様のペロは、ぼってりとした立派な成猫に育っていた。仔猫時代の魔的なかわいらしさからふてぶてしさ漂う外観となってはいたが、濃茶と白い腹のコントラストに顔をうずめさせていただく至福の時間がたまらなくいい。その時間をルナと共有できたら。
「おい、この猫後ろ足だけ靴下履いたみたいな模様だな」
とソウタに言われた。
「うむ。それがペロの数多く所有するチャームポイントのひとつでもある」
と自慢すると、
「靴下じゃなくて長靴かも。小さいとき長靴に入りたがったし」
とルナ。言うことがいちいちかわいい。
「長靴を履いた猫か。童話みたいだな。ペロはお前をお姫様のところにでも連れて行ってくれるのかね」
と顔に似合わないことをソウタが言った。
「なんだよそれ」
と笑いながらも、ペロがもしルナとの仲を取り持ってくれたらと思ってしまう。
勇気が出ず、小学5年から持ち続けたルナへの恋心。
家に帰るとペロから猫パンチで拒絶されるまで、ルナへの想いのたけを語り続ける。最初はスマホの上にどっかりと座って動かないペロも、僕の愚痴の長さに呆れパンチで中断させて去るのが6年ほどの僕とペロのルーティンだ。妹にキモっと言われてもペロは嫌がりながらも毎日話を聞いてくれるので、語りまくる。その分、後から下僕となりペロの好みのままに動くし、語りを聞いた後に必ず出てくるチュールが欲しくて僕の話を聞いてくれているような気がしないでもない。
「どうした?ため息なんてついて。マジお姫様のところに行きたいのか?」とソウタに言われ、やっと現世に意識を戻した。ふと、見られているような気がしてルナへ顔を向けると視線を外された。僕が長々と妄想に浸っていたのがキモかったのかもしれない、これからは気をつけよう。シュンとしつつルナに嫌がられない距離を測りながら、登校してくる他の友人に「おはよう」と挨拶をした。
文化祭の準備どうする?と帰り際にヒカリが言った。芝居の小道具買いにいかない?とルナと話していたミサが提案する。ルナは優しく微笑み僕の方を見る。買い出し先の店を提案しようとして口を開こうとしたとき、ソウタがジュンの首を絞めながら「腹減った腹減った!その前になんか食いに行こう!」と話に参加してきた。グヘェ止めろよ、といいながらジュンも笑っている。ルナが「またじゃれ合ってぇ」とクスクス笑う。やめなよもう、とソウタの腕をジュンの首から外すミサ。みんなの意識が一気にソウタへと向かうのを見ていたら、なんだか急にムカムカとしてきた。
「俺、帰るわ」
クルリと背を向ける。
「え?行かないの?」
とルナに言われ足が止まりかかるが、
「猫様への奉仕が優先かよ」
というソウタの嫌味が聞こえて振り返る気も失せた。
「んだよ!友達より猫かよ!猫が彼女かよ!」
「馬鹿!ペロはオスだよ!」
思わず後ろを振り向きルナと目が合った。僕とソウタの言い合いが悲しいのか、それとも突然不機嫌になった僕が嫌なのか悲しげな表情をしている。ムカムカが一気に上昇し、小走りで自転車置き場へと向かった。
家に戻りいつものごとく愚痴を語っていると、ペロが前足を僕の方へ出し「嫌ニャ」をしてきた。嫌がった様子にデレながらペロを抱き寄せようとする。猫パンチ発動か!と思ったが来ない。不思議に思いペロを見ると「はぁー」とため息をついている。
そりゃこんなに愚痴を聞かされたらため息も……って、え?猫ってため息つくっけ?ため息が猫?猫がため息?
「つくよ」
ペロがあきれ顔で言った。そっか、ため息つくか、うんうん……え?猫が人間みたいな表情であきれる?いや違うって!猫が!ペロがしゃべーっっ!
「感情がうるさいよ」
口をパクパクさせている僕にペロが冷静な様子で声をかける。
「ペロって喋れるの?」
「喋れるさ。誰かさんが毎日愚痴るから覚えたのさ」
「うっ」
「俺、実は長靴を履いた猫の子孫なの」
「子孫?」
「ソウタって勘が鋭いよ。この足の模様が子孫の証拠」
と後ろ足の模様を指でさしながら2本の足でスクっと立った。
「立った!」
「クララみたいに言わない!驚かない!」
そんなこと言われてもと動揺しながらも、目の前の状況が起きてもおかしくない気もしている自分がいた。ペロは昔から賢い子だったし、モフモフだし視線がクールだったし。
「あ、もう俺への誉め言葉はそれくらいで」
ペロ……冷静だな。
「でさ、ツグムはソウタとルナが両想いだと感じてスネたんだよね?」
「うっうん」
「確かめたの?」
「確かめてない」
「確かめろよ」
「……」
「もう!イライラするな!愚痴男!」
ペロがピョンと飛び上がって膝に乗り僕の目を覗き込む。ペロの金色の瞳に吸い込まれそうだと感じた瞬間、目をつぶった。再び目を開けると黒目が目の前に。あれ?ビックリして飛び上がった僕から出た第一声は「ニャア」だった。混乱しながらニャッニャと騒いでいると、体がふわりと浮き上がった。僕が僕に抱き上げられていた。
「ツグムゥ。入れ替わってやった」
「ニャニョニャ?(ペロか?)」
「ご名答。人間なんて毛が生えてなくてゴツゴツヒョロヒョロで可愛げないけど、毎日愚痴を聞かされるのも飽きたから俺がルナとソウタの気持ちを確認してきてやるよ」
そう言うと人型ペロがウキウキと部屋から出て行った。あいつ人の形をボロクソに言っていたけど楽しそう。僕もたまにはモフモフの体を楽しまないと……いや、違う。ペロ、最後なんて言った?ルナとソウタの気持ちを確認って言ってなかったっけ?
やばい!
そう思った瞬間、僕は窓から外に飛び出した。あー!考えなし!と思ったがなんと体が勝手に空中回転して僕の姿をしたペロの腕の中にドスン!と落ちた。
「痛っ……ツグムったら猫だからって高いところからジャンプはダメだよぉ。しかし、すごい衝撃だったなぁ。俺、猫に戻ったらダイエットしないと」
ペロは抱いている僕を自転車の前かごに乗せると、学校へ向かって走り出した。どうして学校への行き方を知っているのか不思議に思っていると、
「なんでもわかるのが不思議?ほら、毎日スマホの上に乗っていたでしょ?あれ情報収集だったの。世間のこと猫だって知りたいから」
とウインクをする。ペロにウインクされているのだが、自分の顔でされるとなんとなく変な気分だ。前かごに乗せられ、心地良い風にウットリしているうちに学校に到着。
「ツグム君!戻って来たの!」
「おーミサ、ごめん!用事が終わって戻った」
「真面目なツグムにしては珍しいと思ったよ」
「ヒカル、ごめんなぁ。これから挽回するから」
「あれぇ?ツグム、今日は口が滑らかだねぇ」
「美女2人に心配かけたからさぁ」
上手いことをいいながら女子2人の頭を僕(ペロ)がポンポン。おい!僕はそんなことしないぞ!前かごでニャーニャー文句を言っていると「きゃー。これがペロちゃん?」「かわいい」とヒカルとミサがデレた。女子2人にスリスリされて気持ち良くないはずがない。僕はなされるがままになる。
「あ!ペロ!」
ルナの声に耳がピクリとなり「ニャア」と最大級にかわいい声を出した。
「ツグム君、ペロを取りに行っていたの?」
「うん、見せるって約束したでしょ」
「なんだよぉ。それならそう言えよ」
とソウタも笑いながら僕を撫でにきた。触るなソウタ。男は要らんと思っていたらジュンがパッと僕を奪い、
「吸わせていただきます!」
と腹に顔をうずめた。ギャー!顔をうずめてもらうなら女子がいい!とジタバタするとヒカルが、
「私も吸いたい!」
と騒ぐ。ペロが、
「そうだよ。ジュン、猫吸いは女子に優先権ありだ」
とヒカルの肩に手をまわしジュンの方へと向かう。
そのとき、ルナの顔が曇った。僕も慌てた。だって普段なら女子に触るなんて絶対にしないし一番触りたいのはルナだ、とジュンの腕の中でジタバタする。ペロ!そんな僕っぽくない行動はやめろ!
「やめろ!」
あれ?僕、猫なのに人間の言葉喋れる?そっか、なんでもありか。なら言えるよねと口を開くと「ニャニャニャニャニャ~!」あれ?
「やめろよ!俺の彼女に!」
怒りに震えたソウタがペロの腕をヒカルから乱暴に振りほどいた。
「やだっ!ソウタ!」と真っ赤な顔のヒカル。「あ!ごめ!」とソウタ。
ニヤニヤするペロ(僕)。唖然とする僕(ペロ)。
「え?ソウタってルナが好き……だよね?」
と言葉が飛び出したとき、僕は人間に戻っていた。足元には澄ました顔のペロが毛づくろいをしている。
「はあ?ルナとツグムが好き合っているの知っているから私がソウタに背中を押せってずっと指示してたの気づかなかった?」
ヒカルが呆れ、ソウタが「ツグムが鈍くてさぁ」とうなずいている。
僕とルナはただ顔を赤くするばかり。
「でもさっき、肩に手を回されたときはドキっとなったわぁ」
「そうだよ、あれよくない。今更純情ぶって顔赤くするなよ」
とヒカルとソウタに言われモゴモゴしているとペロがイラついたのか、
「あれ、俺がツグムに乗り移ってやったことだから」
と喋った。
再びペロを猫吸いしようと手を伸ばしていたジュンの動きが止まる。
ヒカル・ミサ・ソウタも目を丸くし口をパクパクさせる。
その瞬間、僕は人生最速でペロを自転車の前かごに放り込み、ルナの手を取った。
「後ろ!乗って!」
「うん!」
満面の笑みでルナが僕の腰にしがみつく。
「え、え、ええー!」
との声を背中に受けながら僕とルナは校門から飛び出した。
📚🐈📚
落選供養を行うと心が軽くなるのでnoteがあって良かったなと思いますが、
つい「次の落選供養はどれだ?」とウキウキもする自分に気づき、その本末転倒ぶりに呆れています😂