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映画レビュー クライマーズ・ハイ

今回の映画レビューは2008年公開の「クライマーズ・ハイ」。

監督は当時すでに「金融腐蝕列島」「突入せよ!あさま山荘事件」などの代表作がある原田眞人。主演は堤真一。

2008年公開当時映画館で見たのだが、その後でDVDやCSなどでも何度も見た作品。公開後も何度か8月の時期に地上波でも放送されていたが、ここ最近は殆ど見なくなったような印象。新聞社内の物語でもあり専門用語が飛び交って分かりにくい所もあるし、かなりの大事故を扱っている事と意外と政治的問題も微妙に絡んでいるので地上波での放送は難しいのかもしれない。

ちなみにDVDやブルーレイ版で見ることが出来る方は是非とも日本語字幕付きで見る事をお勧めする。それなりに難しい専門用語が飛び交って聞き取りにくい場面が多いし、私自身もDVDで字幕付きで見てやっと理解出来た面もあった。

物語は1985年8月に起きた航空事故をめぐる新聞記者のお話。今でも世界の航空機史上最大の死者を出した日本航空123便墜落事故をモチーフにしたもので、主人公は墜落現場となった群馬県の地方新聞記者であり、新聞記者として事故の報道と原因を追究していく姿が描かれる。

墜落事故をモチーフにはしているが、映画の中身は新聞記者達の熱い闘いの物語。新聞社としての姿勢、上司との確執、記者としての情熱、妬み、スクープへの執着など様々な要素がぶつかり合う。しかし最後は確執と対立から連携プレイへと変貌して行くという熱いドラマが繰り広げられる。現在の新聞業界ではこの映画のような雰囲気は無いと思うのだが、当時の新聞記者達の情熱ぶり(なりふり構わない感じやガラの悪さも含む)を見ることが出来る。

また当時の群馬県内の政治的状況(福中戦争)なども絡んで、新聞社としての立場と姿勢をどう示すかと悩むシーンは面白い。もちろん地方新聞社としての立場がそういう思考にさせるのだろうが、地方新聞社だからこそ出来ることもあるというのを見せている。地元民からの情報を取りあげたり活用するところがそうだが、遺族が情報を求めて地方新聞社を訪れるシーンであ地方紙としての存在意義に気付くシーンが良い。

クライマーズ・ハイというのは登山者が登山時の興奮によって恐怖感が麻痺してしまう状態を指すという。この作品は航空機の墜落という大事故を前にして、新聞記者達の興奮と狂気を重ね合わせた感じ。後半で新聞社内での大乱闘?などがそれに表れていて、大事故の惨状を目の当たりにしたり、目前にあるスクープに目が眩んで…という極限状態が描かれている。

ラストは掴んだ墜落原因とされる特ダネを掲載するかしないかの選択が最大の見せ場。クライマーズ・ハイという社内の極限状態の中で冷静な判断を求められた主人公。だがその決断は彼を退社の方向へと向かわせる…。

架空の新聞社内の物語だけで終わっていないのがこの作品の良さ。正直ラストの決断は観客にとっては意外な方向とも受け取られがちだが、実際今現在も事故原因に対しては議論があるのも事実。一応この当時に事故調査委員会が発表したものがこの航空機事故の原因のすべてとされるが、結局この作品内でもその事故調査委員が原因としている内容を肯定していないのがポイント。作品内でも墜落現場に上った地元消防団のおじいさんが「堕ちたのはココだって分かってたんだ」「もっと早く来れていればもっと助けられていたのに…」とボヤくシーンなどもあり、事故原因と救助活動の初動に対する面をチクリと刺している所が非常に良いと思う。


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