『氷焔』 消え去る事はなくとも、薄れゆくのが自然だろう。 忘れたくて忘れられない事もあれば、忘れたくないのに忘れてしまう事もある。それは、その願いに対する執着の成せる意地悪なのか、はたまた優しさなのか──それは私にはわからない。 ただ、ふとした時に引き留めるものは確かにある。
『氷焔4』 それは胸にくすぶる埋火が、焔の形を取り戻すも、燃え上がる姿そのままに氷に閉じ込められたかの如き。 心も身体も忘れていたのに、何かがどこかに触れた時だけ火柱を上げ、火傷の痕をむし返す。 それは熱さに焼かれた傷なのか、それとも冷たさに──? 答えは出ず、雑踏に立つだけ。
『氷焔3』 通り過ぎる匂いに、不意に心が立ち止まる。何の匂いだったか咄嗟にはわからないのに、自分がその匂いを知っている事、だけは憶えているのだ。 纏う人の全て──不思議なことに、直接的、つまりは物理的なもの──ばかりが薄れ、触れることなど叶わない匂いの方が己に刻み込まれている。