すこし話しただけの君なら、また会えたらこんな話をしよう、と思っていることもできる。「いつか渡せる」と。その「いつか」が来なくても。 だけど、旅路を重ねてゆくのなら、君に渡し忘れたものはないかと、ずっと探すのかもしれない。
君に渡すものがもう無いと分かったら、それはお別れの合図なの? お別れが来ないことだけが日々なのかな。 それとも、日々とはやっぱり、いつかの別れのための準備なのかな。
日々が愛しいんだよ。 すべての間でいたい僕の言葉は誰にも届かないと思う?みんな同じ、それぞれの「日々」の中にいるんだよ。 こんな話だけして、ずっと生きていたいよ。
生きてと言いたいだけなんだよ。 でも、「生きて」という言葉ではたぶん、強すぎるから。ただ、 「いっしょにいよう」 それで君の命を、引き止めることができるのなら。 それだけで、少しでも君の心が傷つかずにいられるのなら。
「同じだよ」という声が、救うこともあれば、見捨てることもある。 「同じじゃない」という言葉が、切り捨てるものがある。でも、守るものもある。
いつか終わると知りながら、永遠に続くみたいに重ねる。 失いたくないと思う時、それはもう失われないものになっているのだと、僕は思う。
確かなことと不確かなことの両方を抱えるのは難しいのなら、僕はどうしても、不確かなことのほうをえらんでしまうのだけれども。 でも、間を見つめていたい。 「どちらかえらばなければならない」と考えることさえ難しい。 本当は全部といっしょにいたい。
いっしょにいよう。一緒に行こうよ。 その気持ちは本当にあるんだよ。 だけど言葉にすると、同時に、きっとその言葉だけで簡単に手を取ることはできないんだということを、痛いほど感じる。 だから何度も言葉を噤んで、それでも言わなければと何度も、無力な思いごと吐き出してきた。
怖くない。 その「ひとりぼっち」を、その「寂しい」を、抱いたままでいいから、いっしょにいよう。 その「寂しい」も連れて、いっしょに生きるんだよ。
「結局またここへ来た」と気づく時、虚しさと嬉しさとが混在している気がする。 「僕は僕なんだな」という安堵と寂しさ。 寂しさと安心はよく似ている。そんな話もしたよ。
静寂が君を生かすなら、静かな空白を守ればいい 雑踏が君を生かすなら、賑やかな場所を探せばいい だけど、それらが君を弾く時、灯りを探して 気のせいでもいい、囁きを、かすかな叫びを聴いて どこかに露の落ちた響きでも、地鳴りが見えるなら、それでもいい 何でもいい、君には何が届くの
君の信じた僕を信じよう。 僕を信じた君を信じよう。
忘れずにいることを、見つめ続けていたいがために。 目に見えないことや、分からないこと、不確かなことを大切に思うのなら、目に見えないことや、確かなことや、現れていくことを大切に思う気持ちも、いっしょに在ってほしい。
退屈な話なのかもしれないね。 長い旅の先にあるのは生活だ。 君と生活している。 積み重ねるのはあまり得意じゃないと思っていたけれど。
どんなにひとりぼっちに思えても、生きていてはいけないと思わないでほしい。 「生きていていい」とは言えない、どうしても、それでは言葉が強すぎる気がする。 「生きていてはいけないと思わなくていい」と言って、それが「生きて」と響くだろうか。
もう話したいことは無いのかもしれない、と思うのも何度目か。 「結局すべてはそこに流れ着く」ものなのかもしれないけれど、そうだね、着く場所が同じでも、通ってきた道はいつも違う。
全部の間にいたい。 忘れずにいたいことも、あっていいよ。 何かを忘れて近づいて行きたいものも、あっていいよ。 そんなゆらぎの中で、もっと上手に生きていられたら良かったんだけど。
忘れていい。無くしていいよ。手放していいんだ。 それは何度でも伝えたい大事な気持ちなんだよ。
「いっしょにいるんだからそれを捨てて」と言われることもあるだろうね。 でもね、もしも、手放すことができるのなら、それでもいいんだよ。 きっと、それで寂しがったりはしないよ。
いつかは、新しい朝を追い越して、僕も永遠になるのだから。 今は一瞬でも君と生きる道を選ぶよ。 一瞬でも、誰かを生かす道を探すよ。
「最期まで分からないから」と、合言葉みたいにくりかえした。
その「ひとりぼっち」はとても寂しがりやなんだろう。僕が寂しいんじゃない。君が寂しいんじゃない。 呼ばれて、近くへ行ってもいい。 だってたぶん、君だからそこへ行ける。
何だっていいんだよ。 気のせいでもいいんだ、本当には何も聴こえなくても。見えなくても。 どこかに憶えていてくれたら、それは本当に鳴っているし、在るんだよ。
やっぱり、 どうしても何も言いたくなくなってしまうね。
「寂しい」が僕を呼ぶ。 聴こえているよ。見えているよ。 聴いている。見ているよ。
どこかでどうしてもひとりぼっちになってしまう君、僕はその「ひとりぼっちのあたたかさ」を、たぶん、知っているから、君がひとりぼっちにならないようにはできない。