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老いと美容3

前略

ずいぶん間が空いてしまったけれど、
叔母がどうなったのか
続きを書きたいと思う。

上りのエスカレーターでこけて、
小柄な体が上に運ばれては転がり落ちる……
繰り返した叔母。

青く腫れ上がった皮膚が
目の上に垂れ下がり、
まるでお岩さんのような形相で
しばらく我が家に身を置いていた。

総合病院の救急で処置してもらってから
1週間経とうかという頃、
叔母が言った。

「美容院へ連れて行ってくれないかしら?」

は!?

なんで美容院へ行くの?と聞くと、
「明日には経過を診てもらいに、
病院へ行かないといけないでしょう。
頭洗ってキレイにしとこうと思ってね」

いやいやいやいや。

事故から約1週間、
頭を洗っていないから気持ちは分かるが、
なぜ頭を洗っていないのかだ。

まだ頭は傷だらけでボコボコに腫れている。
それがどの程度良くなったのかを
診てもらいに病院へ行くわけだ。
そこで、大丈夫だと診断されてから
初めて頭を洗えるのだ。

私は言った。
「血のこびりついたその頭で美容院行ったら、
美容師さんに怖がられるよ」。
叔母は「そうかしら」と残念な顔をした。

私は、そんなふうに
叔母の美容院行きを阻止したものの、
実は感心していた。

どんな状況でも、
行き先が病院で、
会う相手が医師であっても、
身だしなみを気にするんだなぁと。

その後、叔母は
我が家にいる間に何度か転倒したため、
転倒の理由を探るべく、
いくつかの病院へ行った。
最後に大きな専門病院へ行きつき、
16日間の検査入院をしたあと、
難病の診断がくだされた。

叔母は住み慣れた自宅を離れ、
まずは着の身着のままで我が家の近所にある
ケアハウスに身を移していた。
我が家にいる間に、
購入した通販化粧品や新しい口紅などの
コスメをバッグに忍ばせて。

叔母は81歳で、
行き先は老人しかいないケアハウス。
それでもなんでも、コスメは大切だ。
私もそう思うよ。

かしこ

otemoyan55



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