ろうそく夜の奇跡
私が5歳くらいの頃、母が体に良いと言ってすり下ろした山芋を私に渡した。白いネバネバした物体は不味そうで要らないと答えたが結局食べることになった。食べた後すぐに全て吐いてしまった。その後母が山芋を私に勧めてくることはなかったがその当時はまだアレルギーに対して皆知識がなかった。山芋は様々な食品に潜んでいる。そば、お好み焼き、和菓子、魚のすり身の団子などなど。幼い私はまさかそれら美味しい食べ物の中にあの恐ろしい山芋が入っているとは想像もしなかった。毎年恒例大晦日の年越しそば。12月31日の夜は毎年お腹が痛くて苦しかった。たびたび食後に起こる原因不明の腹痛はアレルギーが原因だったのだろう。自分が成長するにつれ自分の身を守るのは自分だと分かった。常に食品表示欄に山芋が入っていないか確認することが習慣となった。それでも今まで何回かは間違えて山芋が混入した食物を食べてひどい目に遭ったことがある。50年間山芋と戦い続けてきたのだ。
先日私が愛してやまない「ろうそく夜」というお店で仲良しの友達と同僚とお昼ご飯を食べた。そこで私は久しぶりにミスをした。ジャガイモと間違えて焼いた山芋を食べてしまったのだ。もちろん友達も同僚も私の山芋アレルギーのことをよくよく知っているので3人ともに顔面蒼白「終わった・・・」と呟いた。しかしであるその後待てど暮らせど唇が腫れたり喉がかゆくなったりお腹が痛くなる症状が全く現れない。店主さんにも確認したが山芋だという返事。山芋を食べて無事だったのは生まれて初めての経験だ。
人はそれを「ろうそく夜の奇跡」と呼ぶ。