久しぶりの墨田と豊島・はじめての西池袋/まちへの開き方と相乗りの楽しさについて
もろもろの事態が収束しはじめて、ようやく仕事以外(あるいはついで)の遠征やフィールドワークも再開。オンライン中心の情報や体験にはない実感、偶発性、身体的な疲れが心地いい。
東京ではTOKYO MIDTOWN AWARD アートコンペの仕事ついでに21_21の「ルール?展」やDESIGN TOUCHT関連企画など。AWARDの展示は、企業研修の仕事でも観覧対象として訪問させていただく。
変わり続けるまちと人の営み、表現の多様性に出会える「すみだ向島EXPO」(〜10/31)
東京アートポイント計画立ち上げ時に「墨東まち見世」(2009-2012)へ仕事で関わってから、距離感様々に見てきた墨田も京島あたりに足を踏み入れたのは2年ぶりくらい(実は1年だけ住んだこともある)。オリパラやコロナの影響か新しいお店や住居(建替え含む)、空き地が一気に増えた感じがあるのと、昨年はじまった「すみだ向島EXPO」のいろんな人・まち(の日常)・活動※の巻き込み具合に目を見張る。
※アートポイント風に書いてみた…
拠点となる京島駅(元米屋)自体も大規模リノベーション作品だと言ってしまえるし、点在する主要な会場(テーマプロジェクト)の多くは木造長屋のそれぞれ一部が使われていたりするから、作品をさておいても、普段の様々な使い方を垣間見れることだけをとっても面白い。そうでなくても、都内では希少な木造密集地区で家と路地が入り組んでいるから、住人の生活がまちに染み出している感じとの出会いが、未体験の人には歩くだけでも衝撃的だろう。
もともとそこにある拠点や同時期に行われるイベントに傘をかけてネーミングしたと思われる「隣人プラットフォーム」、「隣人プロジェクト」を軸に見せているから、まさにこのまちの日常と非日常が交錯するEXPO的に楽しむことができるはずだ。
例えば開発好明さんがEXPO前から取り組んでいる「軒下プロジェクト」は隣人プロジェクトのひとつにも位置づけられていて、独立したチラシもあるしこれだけでも10箇所(軒下だから基本、いつでも無料で見れる)。
キラキラ橘商店街を抜ける途中で飯川雄大さんの作品のしかけに驚き、ボランティアと思われるスタッフの子に好きな作品を教えてもらう。関わる人が皆楽しそうなのがいいですね。
元居酒屋で居間シアターが仕かける資料館《人と酒の関わり館》に膝を打つ。運が良ければメンバーの方とも会えそう。
「隣人コンシェルジュ」なるおすすめ飲食店マップに載っている、昼はサンドイッチ、夜は創作おでん屋さんという業態のお店「三san/十ju」で休憩をしてみる。店員さんに建物の話を聞き、関わるらしいイベント情報なんかも楽しげに教えてもらう。
知る人ぞ知る、趣あるリノベーションスペース「ウラダナ」をブラックキューブにした、開発好明さんらしくないミニマムな体験型作品で気持ちをリセットする。
京島駅から、クサムララッドマットにはスタッフの方のツアーで連れて行ってもらう。
毎日18:00に、長屋の2階で演奏されるバイオリンを路地から眺めることができる「夕刻のヴァイオリン弾き」。住人も入り混じって聞き入る時間も希有な風景だし、終わったらちゃんと、焼き鳥屋さんの親父が「ありがとうございます〜笑」と購入をうながす商売っ気もいい。
タノタイガ作品は銭湯の脱衣所なので、480円払って汗を流しがてら最後に体験。つまり銭湯の常連の方がいちばん見ている。気づいてないかもしれないけど。(15-23時だけど土曜休のため注意)
2,3時間でもこんな感じで、いろんな場や活動の相乗り、それに関わる人との会話を通して楽しめると思います。
強いて難を感じるとしたら、情報量が多くって読みとけずそもそも食指が動かない方もいそうだし、実際にめぐり歩くのにもスタッフの方なりに聞きながらでないと、特に土地勘ない方は大変かもしれない。逆に最初からそれを楽しみ、網羅を目指さない方が楽しめるでしょうね。
でもそうやっていると、アーティストの仕事が必ずしもわかりやすく見えてくるわけではなくて、埋もれてしまうのはやむおえないのか。自分も実際に全部まわれていないけど、飯川さんや居間シアターはいま、この場でないと成立しない力作だし、自分に向き合うことをうながす開発さん、開いているのにしっかりとコンテクストがあるタノさんは、他の作品や要素がかなり多い中でかなり自覚的に今回の仕事をしていると思われる点は、素晴らしいと思う。
アート好きで外から来る来訪者や関係者ではなくて、むしろまちの人に向いている作品もあるけど、ちゃんと今に向き合っているアーティストたちにより表現の多様性が担保されているアートプロジェクトは、わざわざ足を運ぶに値する。そう思うのです。
これはと思った方は、混雑するであろう最後の週末を待たず平日の今日のうちに半日だけの訪問でもおすすめしたい。チケットも3日間有効だし、フォトブックもついている。割引も様々にあるようです。
サイトはいわゆるインフォメーションだけでなくて、読み物もあって記事読んでからとか、後で見返すのもよしでした。
なおノマドで記録まわりのコーディネーションを一部お手伝いしている「すみゆめ」企画として、「舟遊び」ヒロセガイ・さわひらきの、ある人によるレビューも後日、すみゆめ のサイトで公開される予定です。京島駅の屋根裏にある作品なので見逃すことはないと思いますが、こちらも必見です。
まちとつながる回路としての東京芸術祭「ガチャガチャガチャ」(〜11/30)
クラファンで改装中のくすのき荘にも久しぶりに寄りたいし、EDIT LOCALやノマドプロダクションのメンバーも関わっているということで、東京芸術祭のなかから、遠山昇司さんがディレクションする「ガチャガチャガチャ」へ。
F/T(今年から「東京芸術祭プログラムFTレーベル」)は長島確さんが関わるようになってから、アートプロジェクトが面白い。
これまで遠山さんが手がけてきた「水曜日郵便局」や「ポイントホープ」などは、映画監督というバックグラウンドになるほどと思わされる世界観や上品さが担保されていたが、今回はかなり振り切ってカジュアルに親しめるB級テイスト。むしろエディターとして名を連ねる影山裕樹的・新しい骨董的と言ってもいい。
乱暴に言ってしまえば、豊島区というまちをフィールドにする東京芸術祭の中で、全てのプログラムが「作品」然としてある必要はなく、まちとつながる回路としてのツールを提案しているように見える。それはアートであるかどうかの前にローカルメディアだし、それによってつながりが生み出される瞬間というのは、密かでも劇的=東京芸術祭的(つまり「作品」)だとも言えてしまう。
エスニック食材のキーホルダーを引き当てなかったら、通りがかったことのあるMMマートなるお店に入ってみようと思わなかっただろうし、キラキラシールになったお祭りの存在も知らないで終わっていたかもしれない。都電の電停内にある甘味処で、焼きそばと大福のセットを食べることもなかっただろう。
しかもコロナ禍。お店はまた今度いくこともできるし、お祭りは今年も中止で見れなかった。まだ油断ならない状況のいま、外からまちに入ってきて何をするんですかという問いかけだとも言えてしまう。
生活者視点では、ある日突然ガチャガチャの機械が登場して、よく分かんないけど200円だし面白そうだからやってみようかとなる人がいたかもしれない。でもそこでドアノブを引き当てたら…普通はいらないですよね。近くに放置されているのを見つけました。それもガチャガチャ的。交換したっていいし。でも気になってめぐっていくうちに、むしろ玄人向けの「作品」みたいなものに出会う可能性を生み出しているのだ。そんな広がりも素敵だなと妄想する。
遠山さんの仕事が気になる方は、間も無く発売予定となった『危機の時代を生き延びるアートプロジェクト』でも「水曜日郵便局」を取り上げていますので、ぜひチェックをお願いします。
都市の谷間「ニシイケバレイ」で密かに行われる、野心的な実践と研究「for Cities Week 2021」(〜10/31、11/7〜14)
ガチャガチャの設置場所の情報をSNSでも追いかけていくなかで、北澤潤のベチャ(インドネシアの三輪人力車)も見れて、どうやら都市をテーマにした有料の展覧会も行われているらしいという最小限の情報を得て急遽立ち寄ってみたら、会場の「ニシイケバレイ」自体がびっくりするような場所だった。
都市部の開発・デザイン・場づくり系では知られていたりするんでしょうかね。目抜き通りのビルの真裏に低層のアパートやコワーキング・シェアキッチン、平家のコミュニティスペースなどがならぶ。
「for Cities Week 2021」は、ベチャこそあれど、こじんまりとした資料展示が中心なのかなと勝手に想像していたら、道やら塀やらにだいぶはみ出していて、ステートメントにふさわしいプレゼンテーションになっている。
置いてあった新建築の掲載誌を見て、この一帯がそもそも、アグレッシブな?大家さんが実験的な開発をしている場所(道も私道)なのだと理解して納得。
ガチャガチャもだけど、どこでもいい、ということではなくて、その場所だからこその落とし込みができる。場所の方も、存在意義を増している相乗り状態は気持ちがいい。大規模ではないけどいい磁場があって、それを面白がることのできる人が引き寄せられている感じがする。
西池袋という地域自体にほぼはじめて足を踏み入れたけど、そんな場所でこのような出会いができて久々に興奮ものだった。
一般社団法人for Citiesの杉田真理子さん、石川由佳子さんによる企画で京都にも巡回。毎年定期的に行っていく予定だとのことで、注目したい。
そういえば、各地にあるアートプロジェクトやその担い手になっているような団体の移動可能なコンテンツ(広報・記録媒体ベースでも)を3331あたりに集めて、フェア寄りの展覧会をできたら自分もお客さんも楽しいだろうし、足を運んでもらうきっかけになるんじゃないかと思って妄想していた時期があったことも思い出した。何か踏み切れなかったのはどこでどうやってプレゼンテーションすると企画そのものの説得力が出るか、という視点によるところが大きかった気がするし、自分たちだけではそのテクニックも心許なかったからなのだろう。
新年パーティーで限られた参加者向けにものを集めたことくらいならありましたが。そう、自分たちが楽しめる内容に相乗りをしてもらう。墨田の様子や、for Citiesのお2人やまわりにいる楽しそうな人たちの姿を見ても、これが原点だと思うのです。