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インド瞑想記6:おいしい食事が救いだった。

 寝床探しのゴタゴタやら風邪やらで、落ち着かない6日間を過ごし、後半へ。日々のスケジュールはだいたい以下の通り。
5時 起床
6時半〜 朝食
7時45分〜 プログラム
11時半〜 昼食
13時〜 プログラム
18時半〜 夕食
20時〜 プログラム
22時 消灯
 わたしが参加したプログラムは、ヨーガ、呼吸法、瞑想を何サイクルもくり返す実習と、TMの普及に努めたインド人のマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーのビデオを見る座学の組み合わせで、毎日6時間くらいは瞑想していたと思う。瞑想というと、静かに自分の内側に向かうイメージがあると思うが、TMは考えごとをしても寝てしまっても瞑想のうちという大らかさ。実習中、隣の人が大いびきをかいているなんてこともざらで、グループでの瞑想経験が少ないわたしは驚くばかり。こういう騒々しさの中でも瞑想できるのだから、どこでも自分に戻ることができると妙な自信が湧き、そのための海外コースなのかとさえ思った。実習中はおしゃべりしないし、座学は国別に分かれるので、海外の人との交流はほぼゼロで、たまに同じドミトリーの人と話すくらい。

 そのドミトリーでは、ドイツ人とおぼしき年配の女性が22時になると有無を言わさず電気を消す。プログラムを終えて戻るのは毎晩21時半くらいだったから、寝る支度が終わらず暗い中でがさがさしていると「スーツケースをひきずるな」とか「うるさいっ」とか言われる。それでもごそごそしていると「Shame on you!(恥を知れ)」と叫んでくるから、夜は歯を磨いて顔を洗い、着替えるだけで時間切れ。
 そしてこの恥を知れおばさんは、咳パトロールおばさんでもあった。風邪のあと咳が残ってしまったのだが、わたしだけではなく、あちこちからゴホゴホ聞こえていた。すると彼女は懐中電灯を持って見回り、咳をした人にすかさず「咳止めを飲め」と薬を差し出してくる。親切心からなのだろうが、こちらもドクターに処方された薬がある。1回目、2回目は寝たふりをしたが、3回目は起きていることがバレてしまい、しつこく迫ってくるから「薬はあるから大丈夫」と言ったら、「あんたは無礼だ! Shame on you」と罵倒された。

 こんな修行の日々でも、楽しみはあった。海外セレブによるライブはなかったけれど、ユネスコ無形文化遺産に登録されている「ヴェーダの吟唱」や、「ガンダルヴァ・ヴェーダ」というシタールなどのインドの古典楽器を使った演奏を聴けたことは大きな喜びだったし、食事だけは毎食おいしくて感激した。食いしんぼうでよかった。
 学校給食のように列に並んで配膳してもらう食事のメニューは、朝はオートミールにホットミルクをかけたミルク粥と、トースト、デニッシュにバナナ(2日間だけオレンジが出た)、マサラチャイ。昼と夜はいわゆるミールスだ。ミールスとは南インドで食べられている野菜料理を中心とした定食で、ライスにロティかドーサ、ダール(豆カレー)に、サンバル(野菜と豆の煮込み)、アチャール(漬物)やラッサム(スープ)などがつく。加えて昼はジンジャーウォーターとソルトラッシーかマンゴーラッシー、夜はマサラミルクとよばれるスパイスが入ったホットミルク。「これは辛いから、好きだったらお代わりしにきてね」と配膳のインド人に言われたおかずもあったが、どれもまったく辛くなく、野菜本来の味が感じられる穏やかな味付け。ベジタリアンフードは物足りないのではと思ったが、種類が豊富にあるせいかちゃんと満足できたし、毎日食べてもちっとも飽きなかった。アーユルヴェーダでは未消化のものが毒素となってたまり、病気を引き起こすという考え方もある。消化が良いエネルギーに満ちた食事のおかげで、どうにか生き延びることができたのだった。
(つづく)

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