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【劇評364】篠原涼子と首藤康之が声と身体で響き合う。官能の『見知らぬ女の手紙』
声は情感にふるえ、身体が絶望を物語る。
『見知らぬ女の手紙』(シュテファン・ツヴァイク原作 池田信雄翻訳 行定勲翻案・演出)は、官能のありかを探る秀作となった。篠原涼子の声が劇場いっぱいに満たされ、首藤康之の身体が暗闇に沈潜していく。私は、九十分のあいだ、性愛について考え、自らを探った。
ルートヴィッヒ・フォン・ベートーベンのピアノソナタ第十四番「月光」の冒頭が繰りかえされる。長い演奏旅行から帰ったピアニストの男は、留守中に届いたぶ厚い手紙を受け取った。読み進むうちに、かつて向かいの部屋に住んでいた少女が、男の行動の仔細まで、じっとみつめていたと明らかになる。当時、周囲に女性たちに取り巻かれていた男は、少女と戯れの夜を三度過ごした。男はその交渉さえも忘れている。
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舞台上では、篠原涼子が手紙の束にしるされた文字を声にしている。読み終わった紙は床に投げ捨てられる。と、同時に首藤康之もまた、手にした紙を取り落とす。女の執念が男をからみとっていく。やがて、舞台は白い紙で埋め尽くされる。
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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。