【劇評163】森田剛。自らの欲望のために悪魔に魂を売り渡してしまった男フォーチュンを演じる。☆★★★★
だれにでも好みはある。
傾きのある翻訳劇に惹かれてしまうのは、かねてから気がついていた。 傾きというと、曖昧な表現だけれど、主流派ではないと思ってもらってもかまわない。
過激で、悪ふざけをしながらも、真実に突き刺さっている舞台に惹かれてしまう。
劇作家サイモン・スティーブンスの新作『Fortune(フォーチュン)』(広田敦郎翻訳 ショーン・ホームズ演出 ポール・ウィルス美術・衣裳)は、ファウストの物語を下敷きにしている。
つまりは、自らの欲望のために悪魔に魂を売り渡してしまった男の悲劇である。
劇作家はこの物語を、映画監督という芸術家に設定している。
だれもが知っているように、実績のある映画監督は、少なくとも自分の作品制作のなかで、絶対的な権力者である。
権力があれば、当然、孤独が生まれる。日常を支えてくれるスタッフも全面的には信頼出来ない。
森田剛が演じる映画監督フォーチュン・ジョージは、若いプロデューサーのマギー(吉岡里帆)を事務所に迎える。
極めて優秀だが、麻薬の使用歴があると本人も認める。フォーチュンは彼女に一目惚れするが、相思相愛の夫がいる。新しい映画の企画をすすめるうちに、フォーチュンはロンドンの新しいタワーにあるシャンパンバーで、ネットで知り合ったルーシー(田畑智子)と会う。彼はやがて、悪魔の化身のルーシーと奇妙な契約を結んでしまう。
極めて表面的にいえば、フォーチュンがルーシーという麻薬の売人に出合い、コカインなどに手を出た。それ以降は麻薬がもたらした幻覚で、犯罪を犯し、ついには収監されて破滅した物語とも読める。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。