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秋風や水に落ちたる空のいろ (久保田万太郎、あるいは悪漢の涙 第三十二回)

 大正十二年九月、浅草で震災にあひたるあと、本郷駒込の樓紅亭に立退き、半月あまりをすごす、諸事、夢のごとく去る。

 秋風や水に落ちたる空のいろ

 関東大震災が東京を襲う。
 駒形町から転居した北三筋町の家も焼け出される。
 天災は、人の人生を大きく揺るがすばかりか、価値観を転倒させかねない。

 東京市役所編『東京震災録 前輯(ぜんしゆう)』によれば、9月1日午前11時58分、関東地方南部 を襲った大震災の被災者は、約340万人に及んだ。死者9万1344人、行方不明1万3275人、重傷1万6514人、軽傷3万5560人、全焼38万1090世帯、全壊8万3819世帯、半壊9万1232世帯、損害額は推定約55億円余であった。

 これほどの不条理な天災に直面して、多くの人々が無常観にとらわれた。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。