アウグスト・ザンダーが捉えた空爆後のケルン。ヨーロッパの近代史が急によみがえってきた。
書棚の整理をしていたら、三〇年以上前に、神保町の古書店で求めた写真集がでてきた。
ハトロン紙で守られていたので、思いのほか傷んでいない。裏表紙を返すと、¥5780−G11と鉛筆書きがされている。古書店と思い込んでいたが、あるいはタトルのような洋書店で求めたのかもしれない。
肖像写真家として名高いドイツの写真家、アウグスト・ザンダーによる『ケルンの廃墟』は、一九四五年から四六年にかけて撮られた。
中世の古都ケルンは、第二次世界大戦中に、二百五十回を超える連合国の空襲を受けた。特に、四二年の五月三十日から三一にちにかけて行われた爆撃は、ケルンの市街を徹底して破壊しつくした。
この写真集を改めて見返してみると、ケルンの大聖堂は空洞となって、街の象徴はもとより、ドイツ市民の士気を奪うための破滅的な爆撃が行われたとわかる。もちろん、二○二三年の世界にいる私たちには、この写真は、ウクライナの現実と二重写しになる。また、現在ウクライナに最新の戦車を提供するドイツの決断が、自らの国土を失った光景を記憶している人々によって行われているとわかる。
この爆撃のあとに、他の写真家によるアメリカの第三機甲師団による戦車戦の記録も残っている。
けれども、ザンダーの写真が撮影されたのは、市街戦が行われる前で、肖像写真家にもかかわらず、まったくといっていいほど、人間を写し込んでいない。
そこにあるのは、破壊のあとの静粛であった。あえていえば、死が破壊された町を食い荒らした光景が、無言のまま捉えられている。もちろん痛ましくはあるが、なにか厳粛なものに立ち会ったようにも思われる。ザンダーが農夫にカメラを向けたときの距離感と似ている。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。