【劇評304】俳優座がやしゃごの伊藤毅を作・演出に迎え、変革への意志を強く示した。『この夜は終わらぬ。』五枚。
シリアスで、ブラックなコメディを観た。
俳優座スタジオで上演された『この夜は終わらぬ。』(作・演出 伊藤毅)は、夜間中学、在留外国人、医師や看護師不足、高齢化社会、政権交代など、さまざまな問題を痛烈にえぐりだす。俳優座のスマッシュヒットとなった。
中規模らしき病院のロビー。新米の医師鎌田浩二(山田定世)は、ソファーに寝転んで、やる気のないそぶりだ。夜勤のためにやってきた病棟看護師の吉澤雄太(辻井亮人)と話すうちに、緊急外来の担当医師は鎌田ひとりで、緊急外来担当の看護師笠島清子(福原まゆみ)とふたりで対応しなければならないとわかる。どんな患者が運び込まれているか、不安にとりつかれている。
入院患者の坂崎美奈代(佐藤あかり)と中野慶子(松本潤子)に、吉澤看護師が加わり、とりとめのない会話が続いている。
救急車が来た。ストレッチャーに乗せられ頭に大けがをした山崎雅夫(中寛三)が運び込まれてくる。
付き添ってきたスディプ・プルジャ(山田貢央)とマリア・レイエス(椎名慧都)は、それぞれネパールとフィリピンの出身。駆けつけた警官の丸本寛治(渡辺聡)、市毛紗香(釜木美緒)が、スディブとマリアに聴取を始め、在留カードの確認を求めるあたりから、深刻な差別問題が頭をもたげてくる。
国家権力を背に高圧的に迫る警察官たちと夜間中学の生徒は、鋭く対立する。そして、山﨑、スティブ、マリアと同じ夜間中学に通うベトナム人のグエン・ヴァン・ダット(齋藤隆介)、在日中国人の王梓萱(佐藤礼菜)、いじめにあった過去を持つ日本人の綿引慎也(小島颯太)。遅れて駆けつけた夜間中学の国語教師(千賀功嗣)も加わり、入り乱れての騒ぎとなる。
こうして冒頭の筋を書きつけるだけでも、実に周到に書かれた劇だと思う。演劇ユニットやしゃごを代表する伊藤毅は、日本に在留するさまざまな国の外国人を、ユニークに書き分け、演出している。二役まで入れると、二十一役。十五人の俳優が演じていて、当然のことではあるが、ひとりとして似た人物がいない。人間が立ち上がってくる。群衆劇の作者として才腕を見せ、実に巧みに書かれている。
観劇の予定がある方は、これ以降は、ご覧になってから読むことをおすすめします。
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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。