【劇評159】花組芝居『義経千本桜』。加納幸和の円熟。

 十九八七年の設立というから驚く。

 花組芝居が『義経千本桜』の通しを上演すると聞いて、急に観たくなった。

 序幕の「仙道御所」から始めて、知盛、権太、忠信のくだりをすべて網羅している。「北嵯峨」の件りまで含んでいる。これで休憩を含めて三時間以内に収めている。
 かといって駆け足だとは思わない。むしろ、脚本・演出の加納幸和が差し出した「歌舞伎の愉しさ」をどれだけ理解出来るか。知的なパズルを観に行ったような心持ちがした。

 短くはしている。してはいるけれども、原文を生半可に現代語にしたりはしない。竹田出雲、三好松洛、並木千柳の台詞を尊重する。

 そのため、歌舞伎を全く初めて見る観客には(イヤホンガイドがない分だけ)むずかしいかもしれない。
 けれど、ここには、歌舞伎の本質を愛するまっとうな精神がある。
 そして、歌舞伎を愉しんでほしいという強い願いがある。
 姿勢が正しいので、観客も背筋を正して観る。ドラマに入り込み、チャリでは笑う。
 素晴らしい仕事を長年続けてきたものだと頭が下がる。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。