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蜷川幸雄追悼文 2016年5月12日歿

 世界の巨匠という名にふさわしい偉大な演出家が亡くなった。ロンドンをはじめとしてニューヨークやパリでも演出家として観客をひきつける力を持つ唯一無二の存在だった。

 大劇場から小劇場まで活躍の幅は広かった。近年、拠点としたのは、芸術監督を務める彩の国さいたま芸術劇場やBunkamuraシアターコクーンだった。客席700程の中劇場で、シェイクスピアや唐十郎ら日本の劇作家の作品を次々と手がけた。質だけではなく数をもこなす精力的な活動によって、息をひきとるまで、世界の現代演劇を牽引し続けたのは驚嘆に値する。天才とよぶにふさわしい演出家と、同時代に生き、劇場でともに呼吸できたのを誇りに思う。

 蜷川幸雄の演出がこれほどまでに観客を感動させたのは、栄光と悲惨に彩られた人類のの歴史を見詰め続けたからである。

 まず、「冒頭の三分」があげられる。多くの作品で多数の俳優をダイナミックに動かし、劇的な音と照明を重ね、この作品がいかなる方向へと進んでいくのかを、三分で明瞭に指し示した。世界の演劇界を揺るがせたシェイクスピアの『NINAGAWA マクベス』。新たな演出を何度も提示した『ハムレット』。十本のギリシャ悲劇をまとめた『グリークス』など、諍いと悲嘆から逃れられない人類の宿命を執拗に描き続けた。

 また、鳥の視点と虫の視点両方を持ち合わせた演出家だった。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。