ニューヨークスケッチ3 マーケットに犬のいる風景。
キッチン付のアパートメントホテルを選んだ。
実はこの「フルキッチン付」は、看板にいつわりありで、食洗機や鍋や皿やグラス類はそろっているのだが、肝心のレンジが見当たらない。
どこをどう探してもないので、仕方なくハウスキーピングに電話すると、でっかい二口のレンジが届いた。もちろんIHとはとても呼べない電気コンロで、火力も弱い。これはせいぜい暖めものやお湯沸かしにしかつかえないと諦めていた。
けれど、複数の友人から、行ったことがないんだったら、美味しい食材を求めて、ユニオンスクエアのファーマーズマーケットがおすすめ、といわれウーヴァーに慣れるために、白タクを呼ぶ。
ウーヴァーについては、もう日本で活用されている方も多いかと思うのでここには書かない。
昼近くになって、ユニオンスクエアにいくと、テントが並んでいる。40店舗はくだらない。野菜ばかりではなく、自家製のパン、ハム、ソーセージ、サーモン、ハーブなども手に入り、実に壮観だった。
かつて、欧米のみならず、見知らぬ街へ行くと、必ずといっていいほど市に寄った。土地の新鮮な食材が手に入る。色とりどりの食材は、観ているだけでうきうきしてくる。また、消費者ではなく、生産者にあたる人と会えるのは、なんだかおもしろい。
なかでも、目の幸福、買い物の楽しさが、マーケットにはあって、ウィーンやフランクフルトでも、毎日のように通った。
今回は、キッチンの設備もあって、思いのままにはならなかったけれど、マーケットで買った野菜でサラダを作り、ソーセージでスープを作り、りんごやももを買っておやつにするだけでも充分な楽しみがあった。
今回のお目当ては、NYのシンボル、アップルにもあった。友人は、日本では見つからないSnap Dragon、Honeycrispの二種をすすめてくれたのだけれど、Honeycrispが見つかった。
日本のりんごのように、人の手をかけて精緻に育てたのではなく、野性味がある。かといって、素っ気ないかというと、ジュージーで歯ごたえもいい。小ぶりなのも、野外の公園でかぶりつくのにふさわしい。NYがまるごと喉を通過し、やがて私の胃に収まった。
これは偶然だと思うが、ユニオンスクエアもアッパーウェストサイドのゼイバースも、ごく至近距離に、書店のバーンズアンドノーブルがある。今日の収獲をかかえて書店に入り、トイレを拝借し、店内のスタバで市の疲れを癒せるのがありがたかった。
ユニオンスクエアには、小規模ながら無料のドッグランがある。
街を歩いていても、大型犬を散歩する姿が目につく。ゼイバースは、ペットお断りと書いてあるが、ホールストアには大型犬も闊歩している。実にうらやましい。
もっとも、ホテルのエレベーターで、おそらく十頭くらい獰猛な顔つきの犬に出会った。もちろん、噛みつき防止用の口輪をつけているのだが、最初はぎょっとした。トイプードルやチワワのような小型犬全盛の日本とは、別世界に来た気がした。あの一〇頭の犬たちは、品評会のために、全米から集結していたのだろうか。うっかり聞き忘れた。