私の愛聴盤、教えます。桑田佳祐の『THE ROOTS』
「愛聴盤って、もう死語かな」
「懐かしい響きがする言葉だけどね」
「確かに。Spotifyと契約してからは、自動車を運転しながら、細切れで音楽を聴くようになっちゃった。集中して聴く力がなくなったよね」
「『ヘイシリ 南佳孝を掛けて』って音声入力してます」
「昭和歌謡の愛好者ですね」
「ですね」
「実は、半年に一度は、取り出してじっくり観る映像があるんだ」
「秘蔵のTPTとか?」
「いやいや、桑田佳祐なんです」
「舞台じゃないんだ」
「うん、お芝居の映像は、仕事の頭になって楽しめないからね」
「なるほど」
「『THE ROOTS』って、桑田さんが昭和歌謡をフルバンドで歌った映像があるんです。「東京の屋根の下」「赤坂の代は更けて」「有楽町で逢いましょう」「ウナセラディ東京」「車屋さん」「たそがれの銀座」「東京ナイトクラブ」「神田川」「東京砂漠」「唐獅子牡丹」。タイトルを聞いただけでも、泣けるでしょ」
「泣けますね」
「泣けます、桑田さんがタキシードに蝶ネクタイ。ドレープのカーテンが下がるセットで、ひたすら歌う。芸能人だなって思います」
「アーティストじゃなくて、芸能人ね」
「そうそう。芸術じゃなくて、芸能ね」
「実は私、二代目矢野誠一を名乗りたいと、ご本人にお願いしたことがあるんです。肩書きは藝能評論家になる」
「本気ですか? 矢野さんが困るでしょ」
「誠翁を名乗ってくださいと申し上げたら、困っていらした」
「桑田さんも、桑田佳翁になればいいのに」
「そりゃ、もっと困ります」
「しかつめらしい世の中っていやだね。桑田さんは、遊び心の人だから好きなんです」
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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺
歌舞伎や現代演劇を中心とした劇評や、お芝居や本に関する記事は、このマガジンを定期購読していただくとすべてお読みいただけます。月に3から5本…
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。