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【劇評199】いつもの正月のように。なにも変わないことの貴重さ。菊五郎劇団の国立劇場。

 いつものように正月が訪れる。初芝居に行く。繭玉を観る。それがどんなに貴重なことか。

 菊五郎劇団の国立劇場、正月興行は、復活狂言を上演してきた。
 長い間上演されなかった戯曲には、それなりの理由がある。脚本を整理し、演出をほどこす作業は、座頭である菊五郎の負担が大きい。
 平成一八年の十一月だったろうか、『菊五郎の色気』(文春新書)を書くために、菊五郎の楽屋を訪れた。眼鏡をかけた菊五郎は、書見台に台本を置いて見入っていた。
「来年の正月の国立の台本ですよ」
 なるほど、こんな孤独な仕事が、座頭にはあるのだと知った。国立劇場の文芸課があげてきた第一稿を、演出を考えながら、直していたのだろう。

 今回、上演された『四天王御江戸鏑(してんのえどのかぶらや)』は、平成二三年に国立劇場で上演されている。茨木童子と渡辺綱の対決や、からだがふにゃふにゃになってしまうお土砂の場面が印象に残っている。大きなドラマはなく、歌舞伎らしいたのしみが、おせちのように並んでいる芝居だ。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。