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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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#欲望という名の電車

伊藤英明のスタンリーは、胸の傷から、獣の傷つきやすい魂を解放した。

伊藤英明のスタンリーは、胸の傷から、獣の傷つきやすい魂を解放した。

 伊藤英明のスタンリーは、沢尻エリカのブランチと対になっている。
 粗暴で野性に満ちているかに見えて、その奥には、恐ろしいまでに傷つきやすい心がある。テネシー・ウィリアムズは、ブランチを自分の分身としただけではない。スタンリーもまた、劇詩人のもうひとりの分身なのだった。

 『欲望という名の電車』を観ているあいだ中、そんなささくれだった男が気になっていた。演出の鄭義信は、伊藤のスタンリーに、聖痕を

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沢尻エリカのブランチを観た。その日、彼女は、新国立劇場の祭司となった。

沢尻エリカのブランチを観た。その日、彼女は、新国立劇場の祭司となった。

 テネシー・ウィリアムズ作 鄭義信演出の『欲望という名の電車』を観た。新国立劇場中劇場が、完全に満席な状態で、満員御礼だった。
 数は力であるという考えに、従えば、この沢尻エリカ復帰プロジェクトは、ビジネスとして圧倒的な成功を収めたことになる。

 あらためて、思ったのは、テネシー・ウィリアムズの戯曲の強さである。どれほど、恣意的な改変を行っても、構造は揺るがない。むしろ、その改変が思いつきに見え

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水もしたたる色気。 篠井英介 讃

水もしたたる色気。 篠井英介 讃

 大輪の薔薇、しかも深紅の薔薇を見ているようだった。

 篠井さんの舞台を初めて見たときの印象である。記憶をたどってみると、一九八七年に新宿にあったタイニーアリスで見た『いろは四谷怪談』だった。
 私の記憶では、篠井さんはこのとき、女方ではなく、立役の民谷伊右衛門を勤めていたように思う。あるいはその日によって、演じる役が代わっていた可能性もあるけれど、今となっては確かめようがないのが残念だ。

 

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