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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

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2023年9月の記事一覧

【劇評315】『RAGTIME』は、不安定な私たちの時代をあからさまにする。

 私たちは、ラグタイムの時代から、進歩したのだろうか。それとも、懲りることなく、墜落をやめていないのだろうか。  ミュージカル『RAGTIME』(テレンス・マクナリー脚本 リン・アレンズ歌詞 スティーブン・ブラハティ音楽 藤田俊太郎演出 エイマン・フォーリー振付)は、過去のミュージカルの単なるリバイバルではない。私たちの時代が、いかに、不安定で、自信をうしなっているかをあからさまにする。  まず劇の冒頭から、強烈な楽曲「Ragtime」で、さまざまな場所をつないでいく。

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【劇評314】時蔵の定高と松緑の大判事。この名作をのちの世につなげる秀逸な舞台。

 『妹背山婦女庭訓』の「吉野川」は、近松半二の華麗で、なお実のある詞章にすぐれる。両花道を使い、上手、下手の館を、急な川で隔てた舞台面も独特で、歌舞伎屈指の名作といって差し支えない。  二○一六年九月、秀山祭で出てから、七年を隔てての上演だが、時蔵の定高、松緑の大判事ともに、位取りが高く、公にみせる厳しい顔と、子を思う内心の情がこもり、すぐれた舞台となった。  ふたりの親ばかりではない。前半を支えるのは、梅枝の雛鳥、萬之助の久我之助だが、周到きわまりない準備を経ての舞台だ

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国立劇場の売店は、物産展。『妹背山婦女庭訓』にちなんで、奈良になじみの品々。吉野葛を求めてみました。

 気合いが入っているような、入っていないような。国立劇場一階、入口左手、文化堂の向かいにしょんぼりやっている演目ゆかりの物産展が好きです。  今月は、『妹背山婦女庭訓』「吉野川」で、時蔵、松緑、梅枝、萬太郎が、よい芝居を見せています。なにかないかなと売店で物色すると、吉野葛が目に入りました。このごろ、片栗粉であんかけをするのですが、一度はトライしてみたかった本格の葛。なんとなく老舗らしきパッケージにひかれて求めてみました。あ、芝居はぜひ、おすすすめです。

【劇評313】秀逸な「車引」。格調の「連獅子」。贅沢な「一本刀土俵入」。夜の部も快調だった。

 初代吉右衛門ゆかりの秀山祭といえば、重厚でコクのある芝居が見どころ。夜の部には、『菅原伝授手習鑑』の「車引」が出た。  なんといっても、歌昇の梅王丸、種之助の桜丸がすぐれている。桜丸が花道、梅王丸が上手より登場し、舞台で出合って、笠をかぶったまま手をかけて、渡り台詞となる。  金棒引は名題昇進した吉二郎。時平公の車が通ると先触れするが、張った調子がよい。  梅王丸と桜丸とやりとりがあり、笠の紐を解いて、笠を脱ぐと、ふたりの隈がくっきりと現れる。梅王丸の二本隈、桜丸の剥

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歌舞伎座の売店が、本気を出しています。

 ふっと気が向いて、歌舞伎座一階の売店をのぞく。以前は、失礼だけれども、温泉旅館のお土産コーナーとも思えたが、本気を出しています。とりあえず、京都出町ふたばの「名代豆餅(3個入)」を購入。出来たてを空輸とのことです。ただ、入荷は毎日ではないので、確認が必要です。  また、二代目吉右衛門好みの商品も集められていて、守半海苔店の「のり茶漬」に手が伸びる。  観劇の予定がある方はぜひ。また、近所を通りかかったら、切符がなくても、文明堂に面した側から入れるので、のぞいてみてはいかがで

【劇評312】歌六、勘九郎、児太郎の『金閣寺』。力作が揃う吉右衛門三回忌追善。

 祖父と孫の共演は、なぜ、ここまで観客の胸を打つのだろうか。  秀山祭九月大歌舞伎は、二世中村吉右衛門三回忌追善である。ロビーに飾られた写真と花を見るにつけても、吉右衛門の芸容の大きさ、独特の色気が急に思い出された。  吉右衛門の実兄、白鸚は、この追善興行に『二條城の清正』を、孫の染五郎とともに出した。依田川御座船の場である。巨大な船に、染五郎の豊臣秀頼と白鸚の加藤清正が向かい合う純然たる台詞劇である。  いうまでもなく、秀頼と清正は、主従である。師にあたる祖父が、孫に

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【劇評311】伊藤英明の目。人間の欲望に迫る『橋からの眺め』。

 アーサー・ミラーの『橋からの眺め』がNYブロードウェイのコロネットシアターで初演されたのは、一九五五年。すでに七〇年近い時間が過ぎ去り、アメリカ演劇の古典となった。古典となった戯曲が、近年、リバイバルを果たし、見直されている理由は、いくつかある。  もちろん戯曲自体が持っている本質的な力があってのことだ。それに加えて、現代の演出家たちは、美術家の協力を得て、原作の時代設定や場所にこだわらない斬新な舞台を創り出した。   ジョー・ヒル=ギビンズ演出、広田敦郎訳、アレックス

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