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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

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2023年2月の記事一覧

【劇評295】人間は欲望の業火に焼かれて死ぬ。その残酷を執拗に描いたKERAの『Don’t freak out』。

 黒い哄笑が劇場に渦巻く。  笑うのは観客でもなければ、俳優でもない。劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチが、「人間はいつの世も、こうして生きてきたのだよ」と腹を抱えて笑っているのだった。  ナイロン100℃三十周年記念公演の第一弾にあたる『Don’t freak out』は、48Sessionとなる。旺盛な創作力を示すKERAは、二十六年ぶりに、下北沢の本多劇場ではなく、スズナリを選び、超弩級の舞台が生まれた。  コンパクトな舞台に飾られたのは、北方らしき地域に

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アウグスト・ザンダーが捉えた空爆後のケルン。ヨーロッパの近代史が急によみがえってきた。

 書棚の整理をしていたら、三〇年以上前に、神保町の古書店で求めた写真集がでてきた。  ハトロン紙で守られていたので、思いのほか傷んでいない。裏表紙を返すと、¥5780−G11と鉛筆書きがされている。古書店と思い込んでいたが、あるいはタトルのような洋書店で求めたのかもしれない。  肖像写真家として名高いドイツの写真家、アウグスト・ザンダーによる『ケルンの廃墟』は、一九四五年から四六年にかけて撮られた。  中世の古都ケルンは、第二次世界大戦中に、二百五十回を超える連合国の空襲

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【劇評294】仁左衛門の水右衛門に、悪の真髄を見た。

 「一世一代」とは、その演目をもう二度と演じない覚悟を示す。役者にとって重い言葉である。  仁左衛門はこれまで、『女殺油地獄』、『絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)』、『義経千本桜』「渡海屋・大物浦」を、一世一代として演じてきたが、二月の大歌舞伎では、自らが育ててきた演目『通し狂言 霊験亀山鉾—亀山の仇討—』もその列に加わった。  もちろん淋しさはつのるけれども、筋書によれば「この狂言は、長い間私以外演じられていない狂言で、私もまだまだ演じたいのですが、”仁左衛門も歳を取

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【劇評293】亡父富十郎を思い出させる鷹之資、渾身の『船弁慶』

 鷹之資、渾身の『船弁慶』を観た。  この踊りに真摯に取り組む姿を観ながら、十八年前、二○○五年六月歌舞伎座に出た『良寛と子守』が思い出された。  良寛は四世富十郎、子守およしが二代目尾上右近、当時、本名中村大を名乗っていた鷹之資は、里の子大吉だった。  まだ、幼かったからだろう。踊りの途中で、鷹之資は舞台から引っ込んでしまった。あわてた富十郎は、急に父親の素に戻って「大ちゃん、大ちゃん」と必死で呼び戻そうとしていた。「大ちゃん」は、舞台には戻ってこなかったので、富十郎は

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京都の花街、愛したり、食べたり、裏切ったり。

 京都の花街のシステムには、人を惹きつけてやまない深さがある。  是枝裕和総監督の『舞妓さんちのまかないさん』は、その謎めいた世界に斬り込んでいる。  単純な内情暴露ではない。そのシステムの矛盾や時代錯誤まで含めて、よく撮られた作品だと思う。 私は、現在、Netflexで公開されている9話のエピソードを二日にわけてだけれども、一気に観てしまった。  実は、この世界に少し足を踏み入れたことがある。  祇園甲部にはじめて行ったのは、故・十八代目中村勘三郎に連れられてのこと

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【劇評292】那須佐代子、凜による『おやすみ、お母さん』。人間の真実をふかくえぐり出す傑出した舞台。

 母と娘が、容赦なく、これまでため込んできた思いを言葉にする。  マーシャ・ノーマンの『おやすみ、お母さん』(小川絵梨子翻訳・演出)は、セルマ(那須佐代子)とジェシー(那須凜)の親子の人生を、台詞劇として凝縮している。  八二年に初演され、八十三年度にピューリッツアー賞を受賞した戯曲を初めて観たとき、私はテネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』を思い出した。この作品は、強烈な個性を持ったアマンダと繊細な神経のローラが登場する。  この『おやすみ、お母さん』は、年代の違う

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