マガジンのカバー画像

長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

歌舞伎や現代演劇を中心とした劇評や、お芝居や本に関する記事は、このマガジンを定期購読していただくとすべてお読みいただけます。月に3から5本程度更新します。お芝居に関心のあるかたに…
すべての有料記事はこのマガジンに投稿します。演劇関係の記事を手軽に読みたい方に、定期購入をおすすめ…
¥500 / 月 初月無料
運営しているクリエイター

2023年1月の記事一覧

秀作『あでな//いある』を観て、俳優内田健司が、蜷川幸雄演出の『リチャード二世』で人間の本質に突き刺さる演技を見せていたことを思い出した。

 ほろびての新作『あでな//いある』(細川洋平作・演出)が、評判になっています。私も今年を代表する舞台が、新年早々生まれ、その誕生に立ち会えたことをうれしく思います。  この作品に、客/いべ役で出演している内田健司さんは、かつてさいたまネクスト・シアターのメンバーとして、蜷川幸雄さん演出の舞台に立っていました。  蜷川さん最晩年の傑作『リチャード二世』のタイトルロールを演じたのが、内田さんです。かつては、まさしく蒼白な青年の趣でしたが、7年を隔てて、たくましい役者に成長され

¥300

【劇評291】無視されることの残酷。ほろびての細川洋平が、トップランナーの覚悟を見せた。

 無視することの暴力、そして無視されることの残酷。  ほろびての新作『あでな//いある』(細川洋平作・演出)は、社会にはびこる暴力に真っ向から向かい合った秀作となった。  装置は、背景に壊れかけた塀があるだけ。裸舞台に美容室の椅子とワゴン、上手には机と椅子三脚があるだけだけれども、細川の手際のよいステージングで時間と空間を大胆に再構成している。  美容師(伊東紗保)が、客(内田健司)の背後にたって、長いおしゃべりを続けている。美容院の近所にある塀にバンクシーの絵が描かれ

¥300

【劇評290】中川晃教の新境地『チェーザレ 破壊の創造者』の華やかな舞台姿。

 イタリアといえば、フィレンツェが思い出される。当時、アルノ川に面した素敵なレジデンスに、作家の塩野七生さんがお住まいで、幾度となく訪ねた。一九七○年に毎日出版文化賞を受けた『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』は、永遠に記念すべき名著だろうと思う。今回の舞台を観ながら、塩野邸の明るい窓から、ポンテ・ベッキオ橋を背景に、若い青年たちが漕ぐボートが滑っていく光景が、鮮やかに思い出された。  明治座のオリジナル、ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』(惣領冬実原作 荻田

¥300

【劇評289】幸四郎、七之助の『十六夜清心』に、梅玉のいぶし銀の藝を観た。

懐かしい光景が甦ってきた。  河竹黙阿弥の『十六夜清心』を通しで観る喜び。三部制によって制約があるにもかかわらず、通しだからこそ味わえる歌舞伎の企みがあると思った。  年表をたどると、平成十一年、十代目坂東三津五郎(当時・八十助)による本格的な通しは例外として、白蓮本宅まで出たのは、平成十八年の大阪松竹座以来である。仁左衛門の清心、玉三郎の十六夜の舞台だが、残念ながら私は観ていたい。さらにさかのぼると、平成十四年の歌舞伎座では、同じ顔合わせで、こちらは観ている。蠱惑の舞台

¥300

【劇評288】彌十郎が、故・勘三郎を彷彿とさせた。『人間万事金世中』。

 強欲な家族に徹している。  新春の歌舞伎座第二部『人間万事金世中』(今井豊茂演出)は、数ある黙阿弥のなかでも異色の台本である。英国の劇作家リットンが一八四○年に初演した戯曲『money』の翻案であり、当時の横浜を舞台に移した。文明開化の音が聞こえる明治の世相が、今となっては、遠い異国のようにも見える。  この作品は、武家社会の崩壊とともに、すべてが金の価値観に貫かれている。この妄執によって、日本人もまた倫理感を失って、現在にいたるまで底知れぬ拝金主義に陥ったのだとよよく

【劇評287】新年を明るく祝う、新春浅草歌舞伎。松也、歌昇、種之助、莟玉。

 五年の歳月は、歌舞伎役者を大きく育てる。  歌昇、種之助の兄弟が、自前の勉強会「双蝶会」で、『吃又』を上演したのは、二○一七年の八月。三年ぶりに復活した新春浅草歌舞伎で『傾城反魂香(吃又)』を出した。  吃音が故に、後輩の修理之助(莟玉)からも出世で抜かれ、置いて行かれる。才能に恵まれず、世間渡りも巧くはない又兵衛(歌昇)、おとく(種之助)の夫婦は、若いがゆえに、このもどかしさに耐えかねる。  自分がこうありたいというイメージと、他人からの評価が一致しないのが若い時代

¥300

あけましておめでとうございます。

明けましておめでとうございます。 昨年は、世情が騒がしい年でした。毎日のニュースを見るだけでも心がざわつくような毎日が続きました。 新しい一年をはじめるにあたって、原稿の執筆に集中できる平穏な時間に恵まれるように、私自身も務めていきたいと思っています。九歳になった愛犬の小太郎が、いつも慰めと勇気をあたえてくれます。 抱負というといささか大袈裟になりますが、このnoteでの執筆をはじめたために、中堅の劇団を観る機会が増えました。これから昇り龍のように、演劇界を渡っていく劇団