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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

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2022年8月の記事一覧

蜷川幸雄、稽古場の思い出。

 コロナウィルスの脅威が、じわりじわりと効いてきている。  大劇場、小劇場の区別なく、無事、千穐楽を迎えられる舞台は、かなり運がよい。ここまで感染者が広がってくると、カンパニーから陽性者や濃厚接触者をひとりも出さないのは、至難の業になる。  以前から、ゼミの学生を上演の現場に、研修に出してきた。演出家の蜷川幸雄さんには、ずいぶんな数の学生がお世話になった。紹介する条件としては、必ず毎日、欠かさず稽古に参加すること。遅刻欠席は決してないようにと学生に厳しく申し渡した。

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野田秀樹『Q』(初演2019年)を思い出す。なんだ、私はこのときから、邪悪な力のことを考えていたんだ。

 現在、東京芸術劇場で上演中の野田秀樹作・演出『Q』の初演について、私は雑誌『悲劇喜劇』(2020年1月号)に、十五枚の劇評を書いている。  野田の『野田版 研辰の討たれ』が初演のときには、歌舞伎座を大きく震撼させたが、十八代目勘三郎襲名の折、再演では、福助が扇をかざして「あっぱれじゃ」と言い放った部分も、それほど違和感なく観ることができた。初演と再演のあいだには、仮にまったく同じ演出だとしても、時代の変化とともに、私たちの受け止め方は、ずいぶん隔たりが生まれる。 初演の

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【劇評273】染五郎、團子、隼人。売り出しの花形を押し出す『弥次喜多流離譚』。

 歌舞伎という巨大な怪物は、どれほど斬新な新作も、やがて、その胃袋に呑み込んでしまう。  八月納涼歌舞伎第三部は、三年ぶりの『東海道中膝栗毛 弥次喜多流離譚』(十返舎一九原作より 杉原邦生構成 戸部和久脚本 市川猿之助脚本・演出)である。流離譚には、リターンズと読みがなをふっている。幸四郎、猿之助のコンビによるこのシリーズも、第五弾となった。  筋書きに、脚本・演出を兼ねる猿之助が、短い言葉をよせている。そのかなで、先代猿之助・現猿翁の心得を紹介している。 「伯父は続編

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【劇評272】幸四郎、勘九郎、猿之助の役者が生きる第二部。

 八月納涼歌舞伎第二部は、幸四郎、勘九郎の役者で見せる『安政奇聞佃夜嵐』(古河新水作、巌谷槇一脚色 今井豊茂補綴・演出)。  明治の新作歌舞伎だが、異色なことに、石川島監獄に入れられた自由民系運動家と大久保利通の暗殺者の脱獄が背景となっている。  上演例が少ないのも、むべなるかな。  ぐっと興味を誘うのは、序幕第二場の佃島寄場構外である。盗みの罪で投獄されている青木貞治郎(幸四郎)、神谷玄蔵(勘九郎)が、寄場を囲む海を泳ぎ渡る場面が、滅法おもしろい。  このふたりの友

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【劇評271】手塚治虫ワールド満載。十八代目勘三郎のDNAを受け継ぐ清新な『新選組』。

 新しい風が、舞台を吹き抜けた。  八月納涼歌舞伎第一部は、手塚治虫原作、日下部太郎脚本『新選組』は、創意と工夫に満ちている。  わずか一時間十五分の上演時間で、新選組の小史が要領よく語られる。そればかりか、混迷する現在に揺さぶられるふたりの青年の成長譚としても楽しめる。  歌之助の深草五十郎、中村福之助の鎌切大作の対照的な個性が、舞台を弾ませている。若い二人の意気込みがまっすぐに伝わってきて心地よい。  手塚作品の歌舞伎化は、なんと初めてだという。これまで、なぜ、試み

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【劇評270】絶対的な孤独が浮かびあがる野田秀樹『Q』再演の舞台を読む。十一枚。

野田の作品は、未来を写す鏡か。  野田秀樹の戯曲は、再演されるたびに、別の顔を見せる。  先の時代に起こる事件を予見していたようにも見える。  『Q』(野田秀樹作・演出)の初演は二○一九年十月八日だから、再演まで三年に満たない。それにもかかわらず、世界は変わった。激変した。初演の頃は、コロナウィルスの脅威を私たちは知らない。また、ヨーロッパが戦火の渦に巻き込まるとは、想像さえしていなかった。  今回の再演は、コロナ禍によって予定されていた七月二十九日の初日から四日間が公

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