マガジンのカバー画像

長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

歌舞伎や現代演劇を中心とした劇評や、お芝居や本に関する記事は、このマガジンを定期購読していただくとすべてお読みいただけます。月に3から5本程度更新します。お芝居に関心のあるかたに…
すべての有料記事はこのマガジンに投稿します。演劇関係の記事を手軽に読みたい方に、定期購入をおすすめ…
¥500 / 月 初月無料
運営しているクリエイター

2021年10月の記事一覧

祝、文化勲章受章。七代目尾上菊五郎の自在。

 菊五郎さんと出会ったのは、『NINAGAWA 十二夜』の件で、ご縁ができたからのことである。  シェイクスピアの歌舞伎化のような難しい仕事には、困難がつきまとう。演出家蜷川幸雄のプランは、菊五郎さんが、原作のマルヴォーリオとフェステを兼ねるものだった。  この奇想は、歌舞伎役者が、二つ、三つの異なる役柄を自在に兼ねる能力に、蜷川さんが強く期待したところから生まれた。  すでに上演台本の初稿はできあがっており、丸尾坊太夫と捨助を菊五郎さんが勤めること二なっていた。とこが、あ

¥300

選挙を楽しむための小さな行動。カルチャーパスは日本に導入されるか。

 フランスに続いて、スペインも10代の人々に、400€(52865.12円)のカルチャーパスを配布したという記事を、友人の木内さんのサイトで発見しました。本を買ったり、映画やコンサートやオペラに行ったりするのに使えるそうです。  給付金というと、日本では、まっさきに子育てをしている家庭へとの政策が浮上します。もちろん、困窮している世帯への助成は必要です。ですが、富裕層にまで、子供ひとりあたりいくらの助成が、果たして必要でしょうか。  それに対して、カルチャーパスには、未来

¥100

【劇評241】菊五郎劇団の将来と芝翫の色気

 十月大歌舞伎を見渡すと、三部制がときに、現在、歌舞伎界が直面している問題をさらけだしているように思える。  もとより、歌舞伎座の番組は、大立者といわれる実力者が、それぞれ出し物を出していた。しかし、昼の部、夜の部の区切り出在れば、自分が芯を取る出し物以外の演目にも、「御馳走」のようなかたちで、付き合うことがあった。   「御馳走」ばかりではない。大立者と大立者が、ある種の境界を超えて共演し、話題を呼ぶことも、襲名や追善の興行ではあった。  現在の三部制は、感染予防のため

¥300

【劇評240】松緑の強い意欲が突出する『太刀盗人』

 十月大歌舞伎、全体の狂言立てに苦心が見られる。長く三部制が続くと企画もこなれてくる。一方で、時間の制約によって、狂言が限定され、そろそろ新鮮味を出すのが苦しくなっている。  さて、第二部は、白鸚が『時平の七笑』(今井豊茂補綴)を出した。  近年は、ほとんど我當の出し物になっているが、成功例を見たことがない。それは、並木五瓶の作に限界があるからで、時平が表面的な仮面を脱ぎ捨て、悪の正体を見せる結果、長く続く笑いを聞かせる趣向自体に無理がある。笑いに時平の内心を見せるのでは

¥300

ものを書く部屋。これが終の棲家となりそうです。

 長年、自分の部屋を持ちたいと思っていました。高校生のころ、この願いがかなって、北向きの四畳半ではありますが、自室を与えられました。大きめの机と、スチールの安い本棚を壁に巡らし、読書をし、ぼんやりと考え、まあ、ほとんどは、紅茶やビールを飲んだりしたわけですが、まあ、冬はきわめて寒く、夏は暑くてうだるようなこの部屋に巣くっていました。  高校生から東日本大震災までですから、ずいぶん長い間、この部屋の世話になったことになります。最初の劇評集『4秒の革命』(河出書房新社)をまとめ

¥300

勘三郎に帰ってきてほしい。今すぐこの世に。

 長引く病に沈んでいる。  まったく社会的な生活を遮断する訳にもいかない。以前から約束していて、一度、スケジュールをずらしてもらったテレビの取材を受ける。  こうした場合、スタジオとかホテルとか取材社の施設とかで収録してきた。今回は、私の自宅、書斎をディレクターに望まれた。  ちょっと、ためらったのだが、資料としてもらった「アナザーストーリーズ」では、コメントする人間の自宅での収録が、その人物を語って、とても面白かったので、要望を受けることにした。  取材の内容は、十八代目

¥200

菊之助「読書日記」と歌舞伎の未来。

 歌舞伎役者はどんな本を読んでいるのだろう。  八代目坂東三津五郎は、教養人で、多数の著書を持っていることでも知られている。歌舞伎だけではなく、骨董などの趣味が知られ、エッセイも小技が効いている。  若くして亡くなった十代目は、菊五郎劇団の重鎮だった父の九代目に「おまえは八代目の血を引いている」と半ば揶揄されたと語っていた。つまりは、愛書家は、変わり者とされる世界なのだとわかる。  尾上菊之助が、日本経済新聞の読書欄に「読書日記」として四回のエッセイを寄稿している。  

¥300

新シリーズ『本棚に人生がある』。『鏡獅子三代』など、勘三郎をめぐる四冊。

長患いのために、更新が滞っていたが、徐々に復帰しますので、どうかご容赦いただきたい。新シリーズ『本棚に人生がある』と題して、読書と本の周辺についての雑記をお届けします。何を読もうかな、迷ったらご参考にどうぞ、お楽しみに。  必要があって、十八代目中村勘三郎の周辺の本を、集中的に読んでいる。  ユニークなのは、NHKの山川静夫が企画した『鏡獅子三代』(日本放送協会 昭和二十二年)。九代目團十郎、六代目菊五郎から十七代目勘三郎、そして十八代目に伝えられた『春興鏡獅子』を科学の目

¥200