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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

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2021年8月の記事一覧

記録に残すという事。夏に思う。

 映像の収録があって、今月は二度、国立劇場の大劇場に行った。もちろん無観客なのだけれども、充実した舞台を観ていると、世間の騒ぎが遠くなる。こうした時間が人間には必要なのだと実感する。  こうした場に立ち会うと、記録として残すことの大切さを思う。ここにはメダルも放映権料も政治家の思惑も内閣の支持率もからんでいない。かけがえのない一瞬を、アーカイヴとして後世に伝えるために、みなが動いている。  コロナウィルスの脅威によって、人流が制限されている。行動の自由がなくなっている。そ

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『初心忘れず 坂東流創立百年』を読む。

 坂東流創立百周年の冊子をお送りいただいた。  十代目三津五郎とは、生前ご縁があり、二冊の本を編集した。都合、二年半くらいは、毎月、取材のためにお目にかかっていた。  そのためこの冊子では、十代目について、短い評伝を依頼され、喜んで書いた。

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令和三年の菊之助。後半には『京鹿子娘道成寺』の白拍子花子、『摂州合邦辻』の玉手御前、『義経千本桜』のいがみの権太が見たい。

 現在の歌舞伎は、変則的な興行が続いている。  三部制を取っているために、出し物の長さにも制約がかかっており、狂言立てを作るにも苦心がいるのがわかる。  玉三郎や猿之助の談話からも、役者たちが自分の出し物について、時間の制約を考慮した上で企画を考え、松竹とのやりとりのなかで、番組が決められていると思われる。だとすれば、今まで以上に、役者本人の企画力、プロデュース力が問われる時代が来ている。

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【劇評235】七之助、真に迫る豊志賀の恨み。勘九郎の洒脱な狸の踊り。

 七之助が恨みの深さを存分に見せる。  『真景累ケ淵 豊志賀の死』は、明治を代表する落語家、三遊亭円朝の口演から劇化されて、歌舞伎の演目として定着した。  六代目尾上梅幸の豊志賀、六代目尾上菊五郎の新吉の顔合わせで、明治三十一年に市村座で上演され、当たりをとっている。  六代目梅幸は、五代目菊五郎の話として、 「化物と幽霊を一ツに仕ちゃアいけないぜ、化物の方はおどかすように演り、幽霊は朦朧と眠たいやうな心持で演らねばいけない」 と伝えている。  梅幸の『新修梅の下風』に

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【劇評234】巳之助代役の『加賀見山再岩藤』。上上吉の出来映え。

 代役は、役者が大きくなるための好機である。  猿之助の休演を受けて、巳之助が八月花形歌舞伎第一部で、芯となる役を勤めた。  『加賀見山再岩藤』では、鳥井又助に配役されていたが、この役は鷹之資に渡した。巳之助は、多賀大領、御台梅の方、奴伊達平、望月弾正、安田隼人、岩藤の霊の六役を早替りで演じ分けた。  早替りであり、しかも、今回は上演時間を二時間以内に収めての「岩藤怪異編」である。すべての役が書き込まれているわけではないので、出の一瞬に勝負が決まる。また、弾正と岩藤の霊は

¥300