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Landreaall:40巻&ガイドブック感想


2023年2月は記念すべきLandreaall40巻とガイドブックが刊行され、まさにランドリフィーバーと化した月でした。私自身はおととしから読み始めた新参も新参ですが、連載も20年を迎えて大変めでたいなとゼロサムの紙面からもお祭りムードを感じたものです。ここ暫くの私は1〜4巻が無料だった時に知人へ勧めて「なんでここで切れるの!?」という悲鳴を聞きつつアカデミー騎士団編の直前までギフトで贈るなどして過ごしていました。
あとエビアンワンダー(REACT)も読みましたが、ランドリとはまた違うアダルティかつダーク寄りな作風が面白かっただけでなく、火竜編にも通じるダイナミックな伏線回収に思わずラストで叫んでしまいました。廻りゆく愛と世界への祝福に溢れた物語、いやぁ最高でしたね…。


ガイドブック感想

期待に違わぬ読み応えでした。そもそもランドリは世界観設定が非常に凝っており、土地や職業、はたまた王城のサロンや街角の路地裏に至るまで緻密に育まれた作品です。それらが作者のおがきちか先生の手で改めて紐解かれる…その贅沢さだけでおつりがくるというもの。
キャラクター紹介ではDXたちメインを締める各キャラはもとより非ネームドに至るまで網羅されており、見ていて「おったなこの人!!」となることしきり。ランドリは背景設定が強固なのもあって、所謂モブキャラでもそこにいる意味や存在感があったなと再認識しました。

用語集は作中で使われた地名や文化が掲載されているほか、スラングまであるというまさに「LANDREPEDIA」のコーナーに相応しい出来でした!続くコメンタリーでも言及されていましたが、作中に架空の諺やスラングが配置されてる演出は本作が誇る世界観をより確固たるまでに引き上げる働きをしているため、これもまさしくランドリを彩る重要なファクターと思っている私にとって押さえているのはとても嬉しかったです。旋風鳥|《バクラワ》の雛とか、初めて見た時にこの世界に根付く文化の息遣いを感じて衝撃を受けたので今でも好きな用語のひとつなんですよ。「そういう諺ありそう」とするっと飲み込ませるの匠の技だよ…。
また、こういうガイドブックにお馴染みのランキングも小粒ながら粋でよかったです。ハルとジアがキャラクターの中でもダンス上手いのが公式って凄く素敵ですよね…。あの短編、ダンスのステップが持つ意味の温かさやDXが二人に介入する必然性も上手くて完成度が非常に高いです。

そしてなんといっても本書の醍醐味が各巻の演出、構成について語るコメンタリー!本作の丹念に織り込まれた織物のような世界に魅了された私にとって、ここは作品の解像度を高めるだけでなく先生の作画意図や背景にまで視点が広がって本書におけるハイライトでした。一応これ読む前に一気見しておいたんですが、言われるまで気づかなかったことがかなりありました。確かに20巻辺りのヒキの強さ凄かったよなぁ…。ランドリはキャラの表情や仕草といった行間、余白から読み取れるものが余りにも多く、取りこぼしかけたそれらを解説していただけるのがありがたかったです。
読んでいて感じたのが、「あぁ、先生はこの作品世界を愛してるんだなぁ」と。キャラクターの一人一人にこれまでの人生の積み重ねがあり、それが身分や辿った営みによって人間性や魅力に滲み出ている、そんな自然な在り方が極めて丁寧に作られていることの一端を垣間見たような気さえします。ランドリ世界という箱庭へ優しく注がれた愛と情熱を受け取れたというか。エビアンの時もそうだけど、娼館とか所謂「つまみ食い」みたいに下世話にも映る文化まで描くからこそ、香り立つまでに解像度の高い世界が生み出されたんだなぁ。
こういった作品世界への慈愛はダンジョン編でも伺えて、迷宮庭園における「地下ダンジョンを探索してたら爽やかな草原が広がっていた」というRPG好きが心のフェティシズムを刺激されるランキングTOP5に入りそうな展開も、細かな考察によって無理なく作中の理屈に落とし込まれてる辺りの質感に舌を巻いた覚えがあります。ランドリは先生が好きだったり影響を受けた物が文字通り血肉となって世界が育まれているんだと感じました。
また、「キャラクター間の情報格差によってそれぞれが事実の一端を認識し、読者だけがその全容を俯瞰する」という度々用いられる手法に言及されてたのも、この演出好きなんだよな~~わかる~~!!と頷きまくるなど。特に32巻のムーンウォークは、DXや三兄弟といった無数の視点が織り込まれる中で幾つもの軸を股にかけて紡がれる物語の完成度や、人情噺の温かさが高水準に纏まってるのでアカデミー騎士団やクレッサール編といった長編を除くと上位に食い込むレベルで好きです。
そして騎士と恋愛というランドリを貫く概念・哲学に触れられており、この華やかな風味と気高いロマンスの香りが魅力と感じてる勢として大満足です。そう、火竜編は「騎士道」の物語なんですよね…と改めて泣いた。

あとタコトーンにわざわざコーナーが設けられてるのほんと笑った。あれもなんでかんでランドリの持ち味みたいなものだから、データ化されて半永久的に(!?)使用できるの良かったね…。


40巻感想

ダンジョン編も大詰めとなる40巻。これまでは多様なモンスターやギミックを各キャラの強みを活かして踏破してきましたが、対人戦(それも達人)は久々だったので新鮮かつ大ゴマで剣戟アクションが描写されるの満足感が高いですね~!DXの傭兵剣技は剣術自体のレベルの高さは言うに及ばず、周囲のギミックをも最大限利用して意表を突くバトルがケレン味たっぷりなのが目を見張るほど鮮やかで魅入られます。
一方で巨災を巡る連携が並行して描かれた騎士団パートも、討伐の糸口を掴むクライマックスの盛り上がりがアツかった!ここ数巻に渡って脅威を見せつけてきた巨災が過去の文献から「討伐可能な対象」と判明した際の高揚が、回転をかけられ射出されるサー・ジャックのはちゃめちゃな絵面とリンクして独特の面白さを生んでるの一周回って笑ってしまう。

ダンジョン編は迷宮を上へ下へと探索するため一見すると舞台としては手狭に見えますが、その本質は傭兵団や教会といった国内の各組織の働きがクローズアップされ王国の各セクションがどう機能し影響しあうかが解像度高く描かれたり、過去の文献を紐解き攻略の糸口を探るといった王国の内情と歴史に触れ、逆説的に世界の広がりを感じた長編となりました。それはアトルニアに生きる者たちがそれぞれどんな営みでこの世界を回しているのか、彼らの誇りの標を見つめなおす道程にも思えます。
そんな最終局面で、ティ・ティが騎士として民を守り立つ在り方を体現するのほんとようやったよ…!と万感の思いになってしまう。「民のために死ぬのは王の義務」というウルファネア編でのウールンの台詞を背景にして、騎士が命を懸ける意味と決意に還ってくるの堪らない。そんなティ•ティの奮闘を目の当たりにしてファラオンやゼクスレンが思わず叫び、候補生たちも己のすべきことに立ち上がる構図が素晴らしくてとてま良かったですよ•••!

ライナスはダンジョン編を通してその戦闘力が重宝されたけど、ラストで商人としてDXに利用されつつ本領を発揮するのが持ち味を出していて最高でしたね。民を守る騎士でなくてもそれぞれ担う役目|《ちから》があり、剣を振るう場にあらずとも己の領分において戦いの決着を付ける構図は、まさしく誰一人欠けることが許されなかったダンジョン編の総括にも映りました。
それはそうと、ライナスが交渉を請け負って心底嫌そうな顔をする番人があまりにも良い。「商人は寿命のある悪魔」なのは遥かな過去から連綿と受け継がれていた概念だったんだ…としみじみ感じさせる、ある種の歴史ロマンですよね。(そうか?)


サー•ジャック!!サー•ジャック!!


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