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目と舌で味わう中世の香り/騎士王の食卓(1)感想

面白かった!中世ファンタジー最高!!!!!
ここ最近は増えに増えた電子書籍の積読を崩しているんですが、それはそれとして新着一覧に気になる作品があればカートに入れてしまうのは致し方ないところ。表紙のサムネイルとタイトルで痺れるような予感と共に購入した「騎士王の食卓」は、積読でファンタジー系作品を読み漁り熱が再燃している今だからこそ、より眩しさとともに惹かれました。俺は美少年が過酷な世界でも光の射す方を向いて歩んでいく話が好きだからよ…。

紅花カルタモの修道院で幼い頃から暮らす少年レノ。日々の務めの合間に吟遊詩人が唄う騎士譚に想いを馳せていた彼の人生は、修道院を襲撃した農民とそれを撃退した騎士エクウスによって大きく動き出す──という喪失と未来への希望から始まる本作。
まず目を奪うのは、ページの一枚一枚が絵画と見紛うまでに彩られた画風の美しさ。冒頭の見開きは中世の修道院の生活を紹介する役割を担っているが、穏やかな風の香りすら感じさせるこの場面だけで既に一編のファンタジー作品を味わったかのような満足感で心が奪われた。世界観説明と知識の共有という要素を、見開きで示しつつ作品の方向性を明示する圧縮力と作品への没入感を高める手法で圧倒される。

( ゆづか正成「騎士王の食卓(1)」 4、5頁 https://bookwalker.jp/ded3bd2f38-6ec5-4c01-987c-b083464c3dc1/)

そしてなんといっても主人公のレノが良い。女子もかくやという可愛らしさにグッとくるし、騎士譚に目を輝かせる年相応の少年性や修道院で生きてきたが故の穏やかで真っすぐな善性が眩しくてかなり好み。物語において穏やかさの象徴でもある料理にクローズアップするのもキャラ性を簡潔的に打ち出して惹かれる。それでいて家族でもあった神父たちを殺害され打ちひしがれてもなお、騎士への想いに胸を焦がす様にこちらの胸も締め付けられる…。料理を主題にした作品は、おのずと料理がもたらす温かさや真心という文脈と密接に結びつくものだが、その説得力をこちらの心情を揺らがせつつ高水準にお出しされると満足感が高いものだった。
というか作中でも度々言われてるけど、レノ余りにも可愛すぎないか!??ころころ変わる表情とか小さい体で駆ける様がとんでもなく“癖”だし、眼を細めて微笑むカットで毎回ドキッとさせて別の意味で心をザワつかせ、髪が描く曲線も美しくて見るたびにとんでもない心地にさせる。神がかり的なキャラデザですよこれは…。


この微笑みが俺を狂わせる
(ゆづか正成「騎士王の食卓(1)」 44,65頁 https://bookwalker.jp/ded3bd2f38-6ec5-4c01-987c-b083464c3dc1/)



料理をメインに据えた作品としての純度は3話の「佳肴の戦場」がやはりというか高く、うさぎを内蔵も含め丸ごと使ったパイを用いることで互いの心を分ちあう和平を説きつつ、騎士の戦いや策謀といった緊張感のあるテーマを盛り込むことで作品に奥行きを感じさせてかなり好きで、緊張と緩和のバランスで作品をおおいに引き締めたのでないか、と感じる。

脇を固めるエピソードも打率が高く、なにより騎士や城などの文化風俗の描写も深い憧憬と取材を感じさせて目を見張る。建設中の樫の城|《クエルクス》がもつ城の機能や組み立ての風景、そしてそこに住む人々が都市においてどんな役割を持つかなど、細部に至るまでに焦点が当たっている。これがいっそう作品への没入感を高めており、まさに一つの都市が生き物のように脈動する様が高い解像度で味わう、ひとえに贅沢な読み心地をもたらしてこちらも目が離せない。こういう知識でガツンと見せてくる作品がそもそも好きで、例を挙げるとエクウスは風貌も活躍もまさに物語の騎士そのものといった出で立ちだけど、着ている鎧は無骨なのがまた当時の風景を思わせて好きになる。

レシピが美味しさではなくモチーフとなる作品世界で登場人物が食べていたものに近づけるよう工夫されてると言及されてるのも、料理を通してキャラクターの心情に寄り添うような情緒が高められていていいのではないでしょうか。「分かるよ…俺も中世系の作品に憧れて蜂蜜酒を飲み始めたし、ハイロー見てキュウリ食べたりVRAINS見てホットドッグ作ったりして作品への没入度を高めてたから…」などと作品の姿勢にも共感してみたり。


良い作品に触れると同じ作者の過去作にも触れたくなるのもまたサガ。そんなわけで「騎士譚は城壁の中に花ひらく」も読んだものの、いやこっちも突き刺さるほどに凄い作品だな!??と度肝を抜かれた。
騎士の暮らしや当時の役割といった歴史もの的な要素のほかに、騎士における忠誠・誉れとは?という心揺さぶるテーマが張り巡らされ、それらが未熟な騎士見習いのロサの生き様に刻まれる在り方はまさしく現代に蘇った騎士物語。剣を振るう戦士ではなく社会的地位をもつ役職として騎士を描く筆致がとても興味深く、それでいて紋章や狩猟といった騎士を取り巻く要素のひとつひとつにクローズアップし物語に取り込み昇華する手腕に虜になってしまった。少女騎士というモチーフが好みというのもあるが、俺は可憐な少女がその小さな肩に乗せた重圧を捨てぬまま、軽やかに未来へ羽ばたく物語が好きだからな•••。
誇りや愛を賭けて戦う馬上槍試合は単発エピソードながら、まさしく騎士と淑女のロマンスたる大トロの部分を存分に生かしたものだったと、読み終えて思わず感嘆の息を漏らした。まあ俺は騎士が愛を胸に疾走するシチュとかランドリオールのエスナリア編とかがかなり好きだったので。
鍔迫り合う合戦ではなく、城が賊と対峙するというシチュエーションで戦争を描いたのもかなり好み。リソースが徐々に削られていく緊張感や襲撃に備えた城の動きによってSLGじみた視点で戦場を俯瞰するのが随一の読み心地であり、そこから城主が負う責任と騎士が抱く真の名誉に繋がっていくのが、ロサの成長物語として大きな山場を遺憾なく彩り非常に満足なものだった。ここで騎士の戦いが剣を振るうことのみではないと改めて示されることで、序盤でヒルンドーが言った「剣や槍で戦うだけが騎士じゃない」に繋がり、そしてそんなヒルンドーこそが真の忠義に命を賭して行った•••と繋がっていくストーリーの秀逸さが、温かな誇らしさと共に骨身に染み渡っていく。なんかもう二巻のカラー口絵はもはや宗教画でしょといった感じで。
愛情深く張り巡らされるディテールの累積で魅了された物語の果て、最終話でタイトルを回収するのもこれまでの歩みの集大成として趣深く、そして今なお人々の心を惹きつける騎士譚がここにも花開いたのだ•••と実感して目頭を熱くさせた。

全3巻でも十分以上に満足な読後感を覚えつつ、それでもロサたちがあの世界に刻む足跡をもっと見守っていたかった…と寂寥を覚えたのもまた事実。どうやら口コミで広まったとはいえ初動が伸びず打ち切りになってしまったとのことで、無念さにのたうち回ってしまった。エンタメが互いに可処分時間を奪い合うこの地獄変、やはり現代は食べて応援、買って応援の時代…!!


なので騎士王の食卓が続くことを願い、東京観光の折に書泉に行って羊皮紙ポストカードセットを買ってきました。

あとこちらも買いました。まさか騎士譚~の方まで買えるとは思わなかった。中世への旅シリーズは重版のニュースを見た際に買い逃したので入手出来て嬉しい限り。

書泉グランデ、初めて行ったけど中世ファンタジーの世界を味わうならここが本場だぜ!と言わんばかりにコーナーが充実してて感嘆としたし、せっかくだからと蜂蜜酒も買ったらレシートに「グッズ」と書かれてて笑った。蜂蜜酒は別に中世へ想いを馳せるためのファンアイテムじゃないだろ!!いやどうだろう、そうかも••••••。


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