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りえこちゃん

 その昔、おしゃべり好きの義母につかまると結構たいへんだった。何度も繰り返し聞いた話がいくつもある。その中のひとつが、りえこちゃんの話。
 義母は昭和の初め、東京生まれの人だった。牛込の坂の上、結構な出入りのあるお家だったらしい。そのお客様がた、大人と御婆様の話を隅で聞いてお茶の間の猫のようにしているのが好きだったと。
 そんななか、裏隣に越してきた家族に同い年くらいのお嬢さんが二人いた。それは子どものことだから、次第に遊ぶようになる。けれど遊ぶようになるとこれまたやっかいなことに、風邪などの病気も一緒にかかってしまう。まだまだ抗生物質の薬などなく体が弱かった義母は姉妹の一人が病気になると、直ぐにうつされ熱を出した。
 布団に寝かされ薬缶から湯気が立つなかうつしたその張本人、りえこちゃんが、御付きのねえやを連れてお見舞いに来た。自分はもう同じ風邪にはかからないからということらしい。でも、りえこちゃんたらとても無口で何にも話さず枕元に鎮座していて、しばらくすると「お大事に」と裏の自宅に帰って行くのよ・・・。
 ふんふん、左様で。何せ戦前の話だし。
 それが、北原白秋の子。
 えええッ、嘘でしょ。北原白秋って、童謡とかの作詞してるし、教科書にも載ってるよね・・・。嫁としてはその場で、そうは言えない。後で調べました。どうせ思い違いに決まってる。
 北原白秋は、引っ越し魔だった。いつ頃どこにいたかなんて、ちゃんとした研究者だってわかるかわからない。少なくとも、Google先生はそこまで知らなかった。
 でも、娘はいたのだ。
 りえこちゃん
 その義母も他界して、随分になる。
 
 


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