SIX The Musical 「No Way」楽曲解説&訳詞ログ
一昨年くらいに楽曲を聴いて即どハマリしたミュージカルがあります。
それは、SIX The Musical
ケンブリッジ大学の
ミュージカルサークルに所属する学生が製作し、
世界最大級の芸術祭エディンバラ・フリンジで発表したところ人気を集め、ウエスト・エンドのプロデューサーの目に留まりプロデビューを果たしたミュージカルSIX。
2020年にはブロードウェイにも上陸し、コロナ禍による1年間のクローズを経て、ついにブロードウェイデビュー!
今年のトニー賞ミュージカル作品賞ほか多数にもノミネートが決まった!(本当に嬉しすぎるおめでとうCongrats Queens💕)
そのあらすじは
ヘンリー8世の6人のかつての女王たちが現代に蘇り、ガールズバンドを結成、その中でリードボーカルを決めるために、生前、
誰が一番不幸だったか
歴史的に重要だったか
ヘンリー8世にとって良き妻だったか
をコンサート形式で競い合うといったもの。
そんなSIXの楽曲を訳詞してみて昨年ちょこっとあげていたら、フルで聴きたいというありがたいお声をいただいたので、訳詞もバージョンアップしつつ、フルバージョンを録ってみました🎙
こちらは1番目の妻、
キャサリン・オブ・アラゴンが
歌う「No Way」という曲。
そしてそして、自分で原歌詞とにらめっこしながら訳詞をしていても痛感したSIXの楽曲の歌詞の完成度の高さ!!!!!!!!
本当に、マジで、やっばいんです。(語彙力)
そこで!!この私のクソデカ感情を娯楽として昇華し、且つSIXをより広く布教したいなと思い立ち、
楽曲の解説をしつつ、こういう原歌詞があって、私はこんな風に訳詞してみました!というのを自分用にも誰かが見て楽しむ用にもまとめたら面白いかなぁと思い、このnoteを作ってみました!
簡単に言うと
SIX愛が深すぎたが故に爆誕したミュージカルオタク俳優の考察記録です(笑)
あくまで私の考察、私の訳詞なので、もちろんここに書いてあることが全てではありません!色んな解釈、捉え方、訳詞があるからこそ面白いミュージカルですので!
1人の1つの考察を「へぇ〜…面白ぇ考察」と言った感じでお楽しみいただけたら幸いです(笑)
では始まります!
楽曲解説を始める前にまずね!登場人物についてご紹介!
ここの人物関係が分かるとまた深いSIX The Musical!!
はい!!世界史の授業ですよ!!(元世界史専攻)
・登場人物について(ヘンリー8世とキャサリン・オブ・アラゴン)
SIXに登場する6人の女王の共通点は、
皆、ヘンリー8世の妻、お妃であったことです。
ヘンリー8世って誰?と言いますと、
どどーん!
ヘンリー8世
テューダー朝第2代のイングランド王。中央集権化を強力に推進して、イギリス絶対王政を確立した。最初の王妃カザリン(キャサリン・オブ・アラゴン)との離婚問題て教皇と対立してイギリス国教会を設立し、修道院を解散してその土地を新興市民に安く売り払い、彼らの支持を得ながら王権を強化した。ヘンリー8世は、イギリス史上最も賢い王様だったと言われています。しかし、その性格は傲慢で残虐。自分に歯向かったり気に入らない人は躊躇なくばんばん処刑する暴君であったそう。
続いて、今回の「No Way」を歌うこの方について!
キャサリン・オブ・アラゴン
第1の妻。ヘンリー8世より6歳年上で教養もあり、思慮深い良妻と言われていた。カスティーリャ王国(今のスペインの元となった国)の王族の末娘として生まれ、1501年にはイギリス皇太子アーサーと結婚するも、アーサーの死後、その弟のヘンリー8世と再婚。ヘンリー8世との間に6人の子どもを授かるが、死産流産が続き、成人したのは、次女のメアリー(後のメアリー1世)だけだった。
このメアリーはカトリック教徒として育ち、即位後にスペイン王フェリペ2世と結婚し、プロテスタントを迫害し、イングランドを一時、スペインの属国のような立場におとしいれた。ちな、ブラッディ・メアリー(血塗れのメアリー)のメアリーはこのメアリー1世のこと。同名のカクテルはトマトジュースベースで真っ赤だよ!
ちなみに、SIX The Musicalでのアラゴンはこちら。
So Cool!!
・この2人の間に何があったの?
超簡単簡潔に2人の離婚問題のいきさつを解説。
アラゴン、ヘンリー8世の兄アーサーと結婚するも、アーサー死去。
↓
ヘンリー8世と結婚。(この結婚は、教会法が禁じる近親婚にあたるため、本来は婚姻無効だったが、教皇ユリウス2世が特免を与えて許可された。もう何でもありです。)
↓
ヘンリーは、イギリス国内が内乱の後で不安定だったため、跡継ぎ息子を欲していたが、アラゴンは死産流産が続き、唯一子どもで成長したのは女の子のメアリ1世のみ。そのまま健康な男児を産むことができないまま妊娠が難しい年齢となり、ヘンリーは彼女に愛想を尽かし、離婚を求める。
↓
しかし、アラゴンは離婚を拒否。そして、カトリック的にも離婚はタブー。ローマ教皇も離婚問題に激おこ。
↓
しかし、どうしても離婚したいヘンリーくん。色んな理由をつくって離婚しようとします。が、認められず。
↓
ヘンリー「カトリックじゃ離婚できねーだ?だったらカトリックなんてやめてやんよ!!!!!」
↓
イギリス国教会成立。ヘンリーはアラゴンと離婚し、愛妾のアン・ブーリンと結婚。
です。
「No Way」では、この離婚問題についてアラゴンがどう思っていたか、現世に蘇った今だから言わせてもらいます!あんた(ヘンリー)は黙って聴いてな!という感じで、自分こそが真のクイーンよ!という主張をしていきます。
・歌詞を見ながら楽曲解説&訳詞ログ
まず曲名の「No Way」とはどういう意味かというと、
ありえない、とんでもない、決して…ない、ないわー
といったニュアンス。
また、「他に道はない」というニュアンスで「私(アラゴン)を正しい女王として認める以外道はない!」という意味や、「嘘でしょ⁉︎」「信じられない!」といった想定外のことに驚くような意味も込められているのではないかと思います。
訳詞では、タイトルにもなってるし、頻繁に出てくるフレーズなので日本語にはせず、そのままにしました。「な・な・な・な・な・ないわ!」じゃ面白い感じになっちゃうなと(笑)イケナイ太陽はじまりそう。
また、楽譜には「Punky Pop」という表記が!
パンクロックとポップの融合したものがこのPunky Popかなぁと思ってます。
パンクロックは1970年代にロンドンやニューヨークに出現した過激なロックミュージック。体制化・様式化した従来のロックに反発し、荒々しい表現法を強調するスタイルのもので、イギリスなら、セックス・ピストルズやザ・クラッシュなどがパンクロックバンドですね!
アラゴンのキャラとパンクロックはギャップがあって面白いなあと思う一方で、「反抗心」や「DIY(Do It Yourself)」の精神をモットーにしている部分はアラゴンっぽいなあと感じたり!
また、このSIX The Musical、それぞれのキャラクターの楽曲の元となったシンガーがいると言われており、アラゴンの楽曲はビヨンセをイメージしているそう!確かに「Crazy in Love」や「Run the World(Girls)」聴いてみると「No Way」に似てる!と感じます。
さあ、さっそく歌詞解説と訳詞解剖。
※☆マークは簡単な歌詞解説と私のつぶやきです!
⭐︎前述の通り、アラゴンは年上の妻だったため、ヘンリーをベイビー呼びです。
⭐︎アラゴンは「堅実な妻」と言われるほど、しっかり者で規律を重んじる人だったという。ヘンリーの不倫や嘘にも動じず、沈黙を続けていました。
【訳詞ログ】
まず、SIX楽曲全体を通して、韻を踏みまくっている。(しかもその韻の踏み方もお洒落な言い回しばかりで本当に最高。)
↑の部分もsideとliedのおの母音を揃えている。韻を揃えるのが本当に大変だったorz,
出来る限り揃えるようにしたが、どうしても難しいところは他の母音に変えたり、意訳をしました。
やりたい放題のヘンリーに、文句を言わずにそばにいたアラゴンはまさに「ヘンリーに尽くしていた」んだなと思ったので、↑のような訳詞をしました。
☆ Golden Rule(黄金律)とは聖書の中にあるキリストの教え「何事でも人々からしてほしいと望むことは人々からにもその通りにせよ」(『マタイによる福音書』7章12節,『ルカによる福音書』6章31節)を指す。多くの宗教、道徳や哲学で見出される倫理学的言明であり、人生にとってこの上なく有益な教訓を指します。
【訳詞ログ】
はーい、出ました、輸入作品あるある、聖書の一説の引用タイプです。そのまま訳しても、クリスチャンや聖書の知識のある方でない限り、聖書の内容がピンと来ない人が日本人は多いと判断したため、ここは意訳をすることに。「やりたい放題はもうおしまいよ坊や」というような、年上の妻感を出したかったので、↑のような訳詞に。
☆アラゴンの侍女などと何人もの不倫関係を持っていたヘンリー、不倫相手と子どもつくってしまうなんてこともあったとか…。
【訳詞ログ】
ここもfun、thing、son、ringで韻を踏んでるので、うの母音で揃えることに。不貞な感じが出る言葉を調べて考えた結果、「ランデブー」、「アバンチュール」、「爛(ただ)れた」、「退廃的」、「デカダンス」という言葉が合うかなと思いチョイス。
※デカダンスも退廃、懐疑的なという意味があるので、「退廃的なデカダンス」だと頭痛が痛いみたいになっちゃうかと思ったが、芸術の一派としての意味としても使われる方で使っている。
☆ヘンリーの不貞についてどんなことを見聞きしてもアラゴンは何も言わなかった。だからこそ、次のフレーズからの本音マシンガントークが始まります!
【訳詞ログ】
コーラスパートは前のフレーズの「クール」と「閉ざす」で韻を揃えた。
☆アラゴンは礼儀と規律を重んじる上品なキャラクターとして描かれているので、fuckワードは自粛しています。
【訳詞ログ】
ここもsh-とshh、dayとsayで韻を踏んでるが、ここは歌詞の意味を優先することに。
「我慢してきた ずっと毎日 でも今は聞いて 私の話」で韻を踏めるとも思ったんだけど、ちょっと歌いづらいかなあと感じたのと、shhという沈黙を要求する歌詞があるので、黙って!というような言葉を入れた方がわかりやすいかなと感じたので↑のように訳すことに。(もしかすると、今後韻を揃えた方に変えるかも。)
☆離婚を求めるヘンリーに対して、自分が狂っていておかしいとされたことに対して、反論するアラゴン(そりゃそうだ)
【訳詞ログ】
crazy、me, no wayでいの母音、moment、annulmentでおの母音を踏んでる。
前半はそのままのいの母音で揃えたが、後半は意味合い的におの母音で揃えづらかったため、あの母音で代用。ひざまずくならという意訳をしたのは、年上の妻感を出したかったのと、アラゴンは悪いのは完全にヘンリーだと思って、拒否の姿勢をとっていると考えたので、ヘンリーが改心して自分に謝罪する、ひざまずくのを求めているのでは?と思い、チョイス。ひざまずくって言葉もなんか女王様っぽいので。
☆この部分は、ヘンリーが何かと理由をつけてアラゴンに離婚を追求したエピソードのことを表している。旧約聖書のレビ記の、「人がもし、その兄弟の妻を取るならば、これは汚らわしいことである。彼はその兄弟をはずかしめたのであるから、彼らは子なき者となるであろう」(レビ記20章21節)を引用して、これを口実に、自分の兄の元嫁のアラゴンとの結婚は穢れているんだ!穢れたお前は一生子どもなんか産めないんだよー!バーカバーカ!みたいな感じの屁理屈。それに対して、アラゴンは、「いや、お前、メアリー生まれた時そこにいたやないか」とヘンリーを論破。
(※ ちなみに旧約聖書 申命記25章5節では、兄弟が子をなさずに死亡した場合は『レビ記』の規定を無視できるという記述があり、ヘンリーはこれを口実にアラゴンと再婚。もう本当に自分の意志を押し通すために屁理屈ばっかです。)
【訳詞ログ】
ここめっっっっっちゃ時間かかったとこ…思いついた瞬間の達成感が突き抜けていた。
Bible、verse、Cause、wifeで韻を踏んでるので、訳詞もうの母音で「バイブル」「あいつ」「屁理屈」で、私も揃えるようにした。ヘンリーにとってバイブルのレビ記の一節は離婚を成立させるための切り札なんじゃないかなと思い「切り札」という言葉をチョイス。そして、その言い分は、アラゴンからしてみれば屁理屈なので、屁理屈。あいつっていう表現で呆れさと怒りを込められたらなあと思いチョイス。
一節を引用している部分は、原詞の方もめっちゃリズム刻んで韻を踏んでるので、同じように聴こえるようにしたいいいと試行錯誤。say、pity、quotingのti、Leviticusのlevi、kiddyのki、my、lifeのliでいの母音で韻を踏み倒しているので、いの音で訳詞も踏みたいよぉおおお思いつけえぇえと考えあぐねた結果が上の訳詞。「ない」の音で踏んでみた。内容的にも聖書の知識があまりない日本人でもわかりやすいかなあと。
☆こちらでもfuckワードは自粛。でも、明らかに1番よりもアラゴンのイライラが募ってきています。
【訳詞ログ】
naïve、down、leaveでうの母音で揃えているが、ここも私は意味合い優先で訳しました。(今後改編していく中で母音揃えたくなったら揃える可能性大。)
☆ヘンリーはアラゴンに離婚を申し出たのと同時に、離婚して修道院に入ることも要求したが、キャサリンは涙ながら反論し、王妃の座を捨て修道院に入ることもしないと主張したという。そりゃそうだ。
【訳詞ログ】
「修道院」という単語を2小節内に収めることは難しかったので、意訳することに。修道院送り=妻、王妃として必要とされなくなる=邪魔な存在、用無し、いる価値無しと、派生をさせて↑のような感じに。いの母音でもそろえた。
余談だが、ここのNo Wayの歌い方が頭声に返すような歌い方なのは、修道院の賛美歌をイメージしているのかなって思ってる。最高の皮肉。
☆この部分は、おそらくヘンリーとアラゴンの離婚問題についての裁判でのやり取りがモチーフとなっている。
絵画中央の跪いているのがアラゴン、アラゴンに手を取られてそっぽ向いてるのがヘンリー8世。
裁判で、アラゴンはヘンリーの前に歩み出てひざまずき、涙ながらに、ヘンリーへの献身、愛、そして自分が処女であることを大衆の面前で告白した。臣下の面前で女王自ら「床入りの儀式」の様子を赤裸々に告白し、己の処女性を訴えるなど前代未聞の出来事だったという。(ちなみに、ヘンリーは黙秘をつらぬき、何も解決しないまま裁判は閉廷。)
アラゴン…(T_T)
【訳詞ログ】
Knees、wrong、humble、loyal、swallow、along、painなどのうの母音で韻を踏んでる。
うの母音で揃えて踏む、全ての韻を踏むことは難しかったため、代わりにおの母音で「私の」「悪かったの?」「あなたの」「理想の」「したけど」で韻を踏むことに。なるべく原詞でのリズム感にあわせるようにしました。
ここは、ここまでの強気な口調とは打って変わって、腰を低く懇願するようなイメージで訳詞しました。
☆ヘンリーが黙秘を続ける様を見て、アラゴンは呆れ、じゃあやっぱり離婚は認めない!女王の座も退かない!と断言します!
ここの no wayはもうありえない!という意味と、どこにも行かない!他に道はない!的なニュアンスもあるのかなあと思ったり!ダブルミーニング!かっこいいー!
☆ラスサビのこの部分は、曲の中でも1番盛り上がるところであり、アラゴンの1番主張したいところが出るところだと思うので、私がおかしい?飽きたらおしまい?違うわ!と、No!の意思を明確にしています。
【訳詞ログ】
wifeとlifeのうの母音で韻を踏んでいるのですが、最後の音が上がるところはうの母音で歌うの日本語だと歌いづらいかなあと思ったので、永遠にの「に」のい母音にしました。(苦し紛れですが、「クイーン」と「永遠」でうの母音は意識しました(汗))
以上が「No Way」楽曲解説&訳詞logでした!!
お楽しみいただけていたら幸いです!
訳詞の御依頼もいつでもお気軽にどうぞ!
もうすぐ2022年トニー賞!!
SIX The Musicalのパフォーマンスが楽しみですね☺️
つづく…かも?
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